
世界中が注目した米大統領選挙は、ジョー・バイデンがドナルド・トランプとの大接戦を制した。今回の選挙では、メキシコ系米国人が移民を拒否するトランプを支持した一方、かつてトランプを支持した白人労働者たちがバイデンに票を入れるなど、従来のセオリーに反する現象が各地で見られている。バイデンはいかにして、白人労働者階級の支持を取り戻したのか。ジョアン C. ウィリアムズがその要因を鋭く分析し、米国政治のあるべき姿を論じる。
2016年の米国大統領選に敗北してからというもの、民主党は心配で仕方がなかった。ドナルド・トランプに奪われた白人労働者階級の票を、2020年の選挙では取り戻せるだろうか。それも民主党の重要な支持基盤である、非白人有権者の支持を失うことなく――。
彼らはその難題をやり遂げた。今回の選挙で民主党の大統領候補ジョー・バイデンが勝利したのは、前回トランプに奪われたウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルバニア州を取り返したからだ。
白人労働者階級で、民主党候補(2016年はヒラリー・クリントン、今回はバイデン)に投票した男性は、前回は23%だったが、今回は28%に上昇した。女性でも34%から36%に上昇した。「ラストベルト」に位置する州でバイデンが勝利を収めるうえでも、これら白人労働者階級の投票行動の変化は重要な役割を果たした。
もちろん、ほかにも要因はある。バイデンは、長年共和党の牙城だったアリゾナ州とジョージア州でも勝利した。さらにネバダ州も維持した。
アリゾナとネバダでは、選挙に行く中南米系住民が増えたことが大きな勝因となった。ジョージアでは、黒人有権者の投票率上昇がカギとなった。これは2年前の州知事選に僅差で敗れた公民権活動家ステイシー・エイブラムスが、黒人有権者に投票に行くよう根気よく働きかけたおかげだ。
バイデンは予備選の段階でも黒人票に助けられた。緒戦で予想外の苦戦を強いられたバイデンが、最終的に民主党大統領候補の座を勝ち取ったのは、サウスカロライナ州予備選で、ジム・クライバーン下院議員ら黒人の支持を受けて圧勝し、波に乗ったことが大きかった。
バイデンの勝利は、あらゆる人種と階級に支えられた。今回の選挙は、民主党が、非白人有権者と、(完全とはほど遠いが)十分な数の白人労働者階級に、同時にアピールできることを証明した。
また、今回の選挙は、「選挙は人口動態で決まる」というセオリー(つまりは「非白人は民主党に投票するに決まっている」という考え方)の信頼性を大きく傷つけた。トランプはフロリダ州で、中南米系の票の45%を獲得している。これはトランプが、同州に多いキューバ系とベネズエラ系の有権者に「民主党は社会主義をもたらす」というメッセージを執拗に売り込んだおかげだ。
もっと衝撃的なのは、中南米人口が急増しており、民主党の善戦が予想されていたテキサス州で、バイデンが完敗したことだ。これは、南部の中南米系有権者がトランプに流れ、都市部における民主党の優位を帳消しにしたことが一因である。
メキシコから入ってくる移民を食い止めるためにトランプが建設した壁のすぐ近くで、メキシコ系米国人の有権者がこぞってトランプを支持――。こんなことがなぜ起きたのか。
その理由はいくつもある。中南米系の多くは宗教心が強く、男女の役割や家族について伝統的な考え方を持ち、自営業者が多い。たしかに、政治はアイデンティティで決まる。だが、人口動態はアイデンティティではない。中南米系でなくとも、白人なら誰もが同じような投票行動を取るわけではないのと同じだ。