この傾向は、コロナ禍の中でひときわ強まっている。実際、オンラインショッピング・プラットフォームの「ショピファイ」が最近発表したデータによれば、ARコンテンツが用意されている商品は、そうでない商品に比べて、コンバージョン率が94%も高いという。
小売業者はARテクノロジーでバーチャル店舗をつくることにより、人々の買い物体験を大きく様変わりさせ始めてもいる。
衣料品などを扱う小売りチェーン大手のコールズは今年5月、スナップチャットと協働して「ARバーチャル・クロゼット」というサービスの提供を開始した。消費者はスマートフォンとスナップチャットのアプリを使ってAR試着室に入室し、さまざまな商品のマッチングを試し、アプリ内で(そして言うまでもなく、家の外に出ることなく)買い物を済ませることができる。
このARバーチャル・クロゼットで購入できる商品は、消費者ニーズに合わせて絶えず変更されている。サービス開始時には高級路線の春物を取り揃えていたが、その後、スポーツカジュアルが中心になった。在宅勤務をする時に快適な商品を検索する消費者が多かったからだ。
最新のラインナップには、リーバイス製品など、学校再開に向けニーズが高まりそうな商品が並んでいる。消費者は、スナップチャットの新しい「セルフィー・レンズ」機能を使って、リーバイスのトラッカー・ジャケットを着用した自分の姿をチェックすることもできる。
一方、リーバイスは、小売ビジネスへのAR活用戦略の一環として、画面共有アプリのスクワッドも用いている。消費者はこのアプリを利用することにより、友達と一緒に買い物体験を楽しむことができる。スクワッドは今年4月、コロナ禍で失われた社交体験を提供することを狙いに、提供が開始されたアプリである。
小売ビジネスにおけるAR活用を目指す動きが次に進む段階は、ゲームを通じた社交体験の提供になりそうだ。
高級ブランドのバーバリーは最近、スナップチャットと提携し、店舗内でARゲームを提供し始めた。こうしたサービスは、やがてデジタル店舗やデジタルクロゼットにも広がっていく可能性が高い。消費者はそのサービスを利用して、友達と一緒に遊んだり、いろいろなことを試したり、買い物をしたりできるようになるだろう。
エスティ・ローダー、グッチ、ミュウミュウなどのファッションブランドや化粧品ブランドの間ではすでに、モバイル版のアーケードゲームを提供するケースが目立ってきている。バーバリーのモバイル版ゲーム「Bサーフ」は、賞品としてゲーム内で用いるフェイスフィルターとキャラクターも用意している。
このようなデジタル・エンターテインメントを提供しているファッション企業や美容企業は、新規の若い世代の顧客との接点を生み出せるという恩恵に浴せる。「若い世代はオンラインでもオフラインでも、ゲーム的な環境に馴染んでいます。そうした若者たちがバーバリー・コミュニティに加わり、このような形で私たちの新しいパファー・ジャケットのコレクションを検討するようになるのは、素晴らしいことだと思っています」と、同社デジタルコマース担当シニア・バイスプレジデントのマーク・モリスは述べている。