異文化と対立するのではなく、
得意なことを伸ばし、苦手な部分を補う
河合:森精機もDMGも業種は同じですが、ドイツと日本の経営手法はかなり異なるのではないでしょうか。私の経験上、欧州の場合、組織の上に立つ人が最も優秀な存在でなければ、従業員から尊敬されないので士気も上がらず、それが退職の要因にもなっていました。森社長は、どのようなマネジメント・スタイルを採用されているのですか。
森:私自身は伊藤忠で働いていた時からドイツ人と一緒に仕事をする機会が多く、また理系の世界で論理的に相手を説得するトレーニングを積んできたこともあり、彼らとビジネスをするうえで大きな壁を感じることはありません。ただ、社員はかなり苦労しているようです。
海外とのコミュニケーションに悩む社員たちと話をする時、私はよくレンガとモルタルの比喩を使います。DMGで働くドイツ人をレンガだとしたら、日本人はモルタルです。我々は、彼らが得意とすることを伸ばしつつ、苦手なところは補ってあげる接着剤と緩衝剤のような役割ではないかと考えています。
そのためには、自分たちが考えていることを、きちんと言葉で説明する必要があります。私はドイツで「君たちはスターだ」と伝えますが、同時に「ここは苦手だ」という点もはっきりと指摘します。何ができていないのかを理解してもらわなければ、うまくサポートすることもできません。
たとえば、きめ細かな品質管理ができていない、また、お客さんに厳しいことを言われたら怒って帰ってきてしまう姿勢も改善してほしいと言いました。「ここで契約は終わりだ」という難しい状況でも、そこから何ができるのかを考えてほしいのです。
河合:日本人は「空気を読む」という表現に象徴されるハイコンテクスト文化で、相手が言おうとしていることを汲み取ろうとするコミュニケーションを取ります。それに対して、ドイツでは物事をはっきりと言わなければ伝わらず、典型的なローコンテクスト文化ですね。海外企業をマネジメントするうえで、相手の文化を理解する「異文化理解」がとても大切ですが、いまのお話はその実践例だと思います。
森:国ごとの文化や思想の違いをもとに対立するのではなく、「いろいろ違いはあるけど、一緒に働くためにどうすればいいかを考えよう」と呼びかける。そして、自分たちの力で組織をつなぎ合わせて、その結果をきちんと売上げに繋げ、着実な成果を上げられれば、尊敬を勝ちえることにもつながると思います。
河合:森社長は物の見方という観点から、日本と欧州の違いを述べられています。工業用の図面を書く際、日本人や米国人は見えている面をそのまま画面に描く第三角法を使う一方、欧州では見えている面の反対側を画面に描くことになる第一角法を用いますが、それが物の見方を反映しているというお話をされています。
森:それは日本と欧州の違いを象徴する現象の一つだと思います。物の見方が違うと、仕事のやり方にも違いがあらわれます。たとえば、彫刻や絵画などの芸術にもその違いが見られる。
日本の第三角法は、展開して、微に入り細に入りと見ていくものですが、欧州でよく使われる第一角法は自分を中心に投影して見ているので、まず非常に強い自我があり、それから地球や宇宙、事象全体を見て記述しているような考え方に基づいているように思うんですよね。また、そこには起承転結があります。
スペインのサグラダ・ファミリアは代表的ですが、まず構想があり、そこを目指して着工から100年以上経ったいまも建設しています。都市づくりだけではありません。たとえば法律やISO規格、企業会計の基準など、長く続く体系的な思想やルールは欧州から生まれています。
どちらが優れているという話ではありませんが、日本の場合、最近ではそうした継続性失われつつあるように感じています。部分最適が行き過ぎてしまい、全体に目を向ける機会が損なわれている。異なる物の見方を学び、それを取り入れることも重要ではないでしょうか。
河合: INSEADのリンダ・ブリム教授は「グローバル・コスモポリタン・マインドセット」とは、「成長マインドセット」「グローバル・マインドセット」「クリエイティブ・マインドセット」のコンビネーションだと述べています。
成長マインドセットは常に学ぼうとする姿勢、グローバル・マインドセットは自分の考え方に固執せず多様な視点で物事を考えようとすること、そしてクリエイティブ・マインドセットはさまざまなことに興味をもって新しい解決法を見つけるということです。
森社長は、グローバル・コスモポリタン・マインドセットをまさしく体現されているように思います。本日はありがとうございました。





