こうしたバイアスがどのように現れるのか、それをどのように克服したらよいのかを理解するために、筆者らはデンバー大学准教授のティモシー・スウィーニー、ハーバード大学准教授のミナ・シカーラ、スタンフォード大学教授のジェームズ・グロスとともに、集団の感情を増幅させる傾向に関する一連の実験研究を行った。
ある実験では、被験者に最大12人の集団の画像を見せた。画像に写っている顔は、それぞれ特定の度合いの感情を表現するように調整されている。そのため、筆者らは平均値を計算することで、集団の感情状態を客観的にとらえることができる。
被験者には、画像から集団の平均的な感情状態を推測させ、その回答と実際に画像に描かれている感情レベルとを比較した。
筆者らが予想した通り、被験者は集団の感情を一貫して実際より強めに評価した。だが、新たに興味深い2つの発見があった。
第1に、被験者は集団が大きいほど、その感情状態を実際よりも強いものとして評価した。現実社会の集団において、人々の感情表現の強度に差があるように、画像は顔によって感情の強さを無作為に変えているため、大きな集団のほうが小さな集団よりも強い感情を示す顔が含まれる確率が高くなっている。人は、強い感情を示す顔に目を奪われる傾向があるため、大きな集団のほうが平均して、感情のレベルが高いと評価される結果になった。
第2に、被験者は喜びなどのポジティブな表情よりも、怒りなどのネガティブな表情を集団の感情として過度に受け止める度合いが、わずかではあるが大きかった。人の注意が、ポジティブな感情を示す顔よりも、ネガティブな感情を示す顔に本能的に引き付けられる傾向があることは、これまでの調査で示されていたが、筆者らの調査でそれが個人だけでなく集団にも当てはまることが明らかになった。集団の感情状態を読み取る能力は、強い感情だけでなく、ネガティブな反応を偏重する傾向があるのだ。





