集団の感情を実際より強く見積もる傾向があるのはなぜか。そのメカニズムをさらに理解するために、筆者らは次の実験を行った。

 実験では、被験者に集団の感情を評価させると同時に、アイトラッカーを使って被験者の視点を追跡した。被験者は、集団の画像に目を通しながらも、一貫して感情が強く現れている顔に目が止まっていることがわかった。その結果、集団の平均的な感情状態を推測する際に、そうした顔に過剰に重点を置いていた。

 筆者らの研究はまだ始まったばかりであり、処方箋の提供には慎重を期したい。だが興味深いことに、後者の実験結果は、集団の感情状態を実際よりも高く評価するバイアスの回避法が存在する可能性を示唆している。

 つまり、強い感情を示す顔に注意を向けることが、集団の感情を実際よりも強く認識する傾向につながるのであれば、意識的に感情的な顔とそうでない顔の両方に同程度、目を配るのだ。そうすることにより、聴衆の認識をより正確に把握することにつながると考えられる。

 また筆者らは、バーチャルな環境においては、強い感情反応が増幅される傾向が、特に顕著になると推測している。なぜなら、画面を通じて示される弱い感情のシグナルは、対面の場合に比べて見過ごされる可能性が高いと考えられるからだ(これは現時点ではあくまで推測であり、さらなる検証を要する)。

 あなたが今度、アイデアを提案したり、スピーチを行ったりする時、あるいは会場の空気を読みたいと思ったりした時には、強い感情を示す1人か2人の顔だけでなく、積極的に全員の顔を見ることをお勧めする。それによって、本能的な注意バイアスが完全になくなるわけではないが、聴衆の本当の感情をより正確に読み取れるようになるだろう。


HBR.org原文:Don't Focus on the Most Expressive Face in the Audience, November 30, 2020.