DHBR最新号特集の「人を活かすマネジメント」は、永遠のテーマです。ただし今日、経済環境の変化から、短期ではコロナ禍による景気後退のため多くの企業で人員が削減される一方、中長期では人工知能(AI)などの機械が人の仕事に代わる領域が増え、人材管理の重要性は増しています。


 生産性(アウトプット/インプット)で言えば、少数人員のインプットで、個々人のやる気を高め、創意工夫で価値創造して、アウトプットの収益を高める経営が求められています。

 特集1番目の論文では、フレデリック・テイラーの科学的管理法に代表される労働監督に重きを置いた手法が再評価され、従業員の自主性を尊重する手法に比べて、優勢になっている現状を批判します。

 テクノロジーの進化で、労働状況の把握や労働需給の調整が容易になり、人件費を変動費にできる契約労働者が増えたことで収益が安定化する半面、労働者のやる気やロイヤルティを低下させ、結果的に生産性を低下させるリスクがあるからです。

 労働監督と自主性尊重のバランスが大切と論じます。「アジャイル化する人事」など人材マネジメントの新しい動向を研究し続けるピーター・キャペリ氏らしい刺激的な論考です。

 特集2番目は大御所、ゲイリー・ハメル氏の「現場の潜在力を引き出すマネジャーの心得」。タイヤ大手ミシュランを徹底研究して、生産現場の創造性を効果的に引き出す具体策として、従業員へのエンパワーメントの仕方を提示しています。

 ここは日本企業に競争優位がある分野ですが、外国の大企業の変革ケースは、多様な障害の克服法などにおいて、学べる点が多くあります。

 特集3番目は、日本の大御所、野中郁次郎氏へのインタビューです。

 前半は特集の流れに沿って、人材マネジメントの理論が歴史的にどのように発展したか、そこに日本企業や日本人はどう寄与したか。後半は、野中氏が25年前に考案したSECIモデルを新著『ワイズカンパニー』でどのように発展させたか、を伺いました。

 実践知、共通善、相互主観性など、AIには無理で、人にしかできない、組織で知識を創造していく要諦をご教授いただきました。

 とはいえ、AIは着実に企業に入ってきます。その現実を踏まえて、特集4番目の論文「AIが真の同僚となる日」は、社員とAIが教え合い、持続的に成長するための4つのプロセスを提示します。新入社員を迎え入れるような方法論というのがミソです。

 野中理論の一つに、時間の流れからの知識創造があります。その実例ともいえるのが特集5番目の論考です。世界的酩酒となった「獺祭」がどのようにして生まれたか。当事者である旭酒造会長の桜井博志氏が論じます。

 杜氏に逃げられたという苦い経験をもとに、データと機械と人の力を融合して、斬新な製品を開発・生産していく過程で、どう考え、社員と協働したかが明かされます。

 特集外でも、論文「オンデマンド型の人材プラットフォームをどう活用するか」では仕組みとしての人材の調達と活用法を、論文「マイクロマネジメントに陥らず部下に手を差し伸べる方法」ではリモートワークで重要性が増す上司による部下支援策を、具体的に提示しています。