Juan Moyano/Stocksy

アマゾン・ドットコム、バークシャー・ハザウェイ、JPモルガン・チェースという米国を代表する3社が立ち上げたヘルスケア企業「ヘイブン」が、3年も経たずに解散することとなった。野心的な目標を掲げ、米国のヘルスケアに革新をもたらすことが期待されていた企業は、なぜ失敗したのか。筆者は3つの要因があると分析する。


 米国のヘルスケアサービスを破壊するとして、アマゾン・ドットコム、バークシャー・ハザウェイ、JPモルガン・チェースが設立した合弁会社「ヘイブン」が、立ち上げから3年も経たずに解散されることになった。

 3社は設立時、「米国の従業員とその家族に、簡素化され、高品質で透明性の高いヘルスケアを適切な価格で提供する」という高い目標を掲げていた。

 著名な著述家で外科医のアトゥール・ガワンデがCEOに、コムキャストでデジタルヘルス担当のゼネラルマネジャーを務めたジャック・ストッダードがCOOに就任した。ところが、人材の流出がじわじわと進み、ストッダードは就任からわずか9カ月で、ガワンデも1年で退任した。

 3社は合わせて120万人の従業員を抱え、とてつもない市場支配力を持っているにもかかわらず、目標は達成されなかった。それには3つの要因がある。

 ●市場支配力の不足

 従業員が120万人いながらも、ヘブンの3社は医療提供者に価格を下げさせるほどの市場支配力を持たなかった。主な理由は、過去10~15年に米国で起きた医療システムの統合だ。雇用者グループが地域市場の大部分(対象となる従業員の50%以上)を占めない限り、医療提供者は価格を下げようとしない。ヘブンの3社の従業員は全国に散らばっていたため、1つの市場ですら支配できなかった。

 ●倒錯したインセンティブ

 私たちの社会ではいまだ、病院は病床利用率が高いほど利益が上がる仕組みになっている。その結果として、米国の医療システムは疾病の予防よりも治療に焦点を当てる。

 ボリュームベースで出来高払いの診療報酬制度を、医療提供者に対し毎月患者1人当たりにつき定額の報酬を成果と結びつけて払う人頭払いに置き換えない限り、病院側にとっては患者の入院を抑える動機にはならない。カイザーパーマネンテインターマウンテンといったごく一部の組織のように、医療システムと保険をどちらも運営している場合は別だ。

 保険会社や医療提供者は既存の支配的なシステムで大きな利益を上げているため、報酬が固定された人頭払いに変更したり、そのリスクを受け入れたりする理由はほぼない。

 米保険福祉省のメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、アカウンタブル・ケア・オーガニゼーション(ACO)を通じて、メディケア加入者のためにリスクを取るような医療制度を奨励しているが、多くは消極的で、大半は比較的安全な出来高払いを維持している。