半導体不足が問題を引き起こすのは、2020年後半から時間の問題だった。(互いに関係のない)いくつかの要因によりサプライチェーンが混乱したことで、状況は次第に深刻化してきていた。
2020年の春、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行により、自動車の売上げが急激に落ち込んだ時、自動車メーカーはあらゆる部品や原材料の発注を減らした。タッチスクリーンから衝突回避システムまで、自動車のさまざまな機能で必要とされる半導体も、その例外ではなかった。
その後、2020年第3四半期になって乗用車の需要が回復し、自動車メーカーが半導体を必要とし始めた時には、半導体メーカーはすでに消費者家電やITなどの分野の大口顧客に半導体を供給することを約束してしまっていた。
地政学上の要因も関係していた。ドナルド・トランプ前政権がファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)やZTE(中興通訊)など中国企業への半導体売却を厳しく規制し始めると、これらの企業は、5Gスマートフォンなどの製品に欠かせない半導体の備蓄を増やし始めた。一方、同じ時期、米国政府が中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)を禁輸リストに載せると、米国企業は同社から半導体の供給を受けられなくなった。
2020年7月には、日本の工場火災により、プリント配線基板に用いられる特殊なグラスファイバーの供給が止まった。同年10月には、やはり日本の旭化成マイクロデバイスの工場で火災が起こり、自動車産業などで用いる高度なセンシングデバイスの供給が停止した。2021年2月末の時点で、この工場はまだ操業を再開していない。
それに加えて駄目押しのように、世界規模で貨物の輸送能力が落ち込んでいる。世界の海上貨物輸送の90%以上をモニタリングしているクリアメタルによれば、2021年の第1四半期、コンテナの7%近くが中国の港を出港できていない。コンテナ不足により、海上貨物輸送の運賃が高騰しているほか、航空輸送を用いようとする企業も増えている。
しかし、航空輸送システムの輸送能力に余力があるわけではない。新型コロナウイルス・ワクチンの輸送ニーズにより輸送需要が押し上げられているし、コロナ禍で航空旅客需要が落ち込んだ結果、旅客便が減便を余儀なくされて、貨物を載せられる航空機の便数も少なくなってしまったのだ。
実際、2021年第1四半期、世界の航空貨物輸送能力は、前年同期比で25%減っている。また、プラット・アンド・ホイットニー製のエンジンを載せたボーイング777型機がコロラド州で部品落下事故を起こしたことを受けて、多くのボーイング777型機の運航が停止されたことも、輸送能力の低下に拍車を掛けた。