
新型コロナウイルス感染症の収束に伴い、世界経済は活気を取り戻すことが予想される。しかし、コロナ禍で落ち込んだ需要が急増したら、いまのサプライチェーンで対応できるのだろうか。その懸念を象徴するのが、自動車をはじめとする世界中のメーカーが頭を抱えている半導体不足だ。コロナ禍に加えて、地政学上の問題などに対する見通しが甘かったことで、各社は生産計画の見直しを迫られている。変化に柔軟に対処し、レジリエンスを持ち続けるために、自社のサプライチェーン戦略を見直すべきだと筆者は主張する。
2021年、新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種を受ける人が増えるにつれて、米国経済は加速していくと予想されている。
その中で大きな懸念材料の一つは、需要の増大にサプライチェーンがはたして対応できるのかという点だ。実際、コロナ禍の中でサプライチェーンの大混乱と物資不足への懸念が高まったことを受けて、ジョー・バイデン政権は、重要な物資に関してサプライチェーンの再検討を指示した。
そうした重要物資の一つが、半導体だ。現在、多くの半導体は、発注から納品までに1年の期間を要する。しかも、いまや半導体は、私たちの身の回りのさまざまなものに使われている。
ビジネス・金融メディアが詳しく報じているように、半導体不足により自動車産業は減産を余儀なくされた。フォード、トヨタ自動車、日産、フォルクスワーゲン、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(現在はステランティス傘下)などがすでに生産量を削減しているし、それ以外の自動車メーカーも2021年の生産目標を達成できない可能性が高いという見通しを発表している。
苦境に陥っているのは、自動車メーカーだけではない。半導体不足は、エレクトロニクス製品に始まり、医療機器やテクノロジーネットワーク機器にいたるまで、さまざまな製品を不足させると予測されている。
最近のロイター通信の報道によれば、米国の自動車メーカーと医療機器メーカーはバイデン政権に対して、米国内の半導体生産施設の新規建設に補助金を拠出するよう要請した。また、半導体不足を受けて、世界最大の半導体メーカーである台湾のTSMCは、2021年の設備投資予算を280億ドルまで増額している。しかし、新しい半導体生産施設が稼働を開始するまでには、少なく見積もっても5年はかかる。