いま、なぜ信頼の危機が起きているのか

 企業は何年もかけて、在宅勤務制度を試みてきた。今回、何が新しい問題となっているのだろうか。

 第1に、リモートワークは現在、幅広い従業員に適用されている。かつて企業は、在宅勤務する従業員を厳選していた。在宅勤務が可能だったのは、高い信頼を得ている従業員か、マネジャーが生産性を測り、責任を持たせることができる職種の従業員のいずれかであったからだ。いまでは、過去の業績や仕事の内容にかかわらず、誰もが在宅勤務している。

 第2に、在宅勤務に移行せよという指示が世界中で飛び交った時、人々は突然、否応なしにリモートワークを始めなければならなかった。必要な機器も研修もなければ、そうしたいという願望を持っていない場合も多かった。従業員にとってリモート勤務が選択肢の一つであった過去の状況とは異なり、いまは家庭ですべきことが増えたり、家庭内の他のメンバーも在宅勤務をしていたりするため、多くの人が家で仕事に集中するのに苦労している。

 第3に、経済と雇用の先行きが不確実であることが従業員の不安を生み、単独行動志向や他者に対する警戒心へとつながっている。

 最後に、在宅勤務で直面するさまざまな問題(テクノロジーの不具合、仕事のルール変更、仕事の責務と家庭ですべきこととのせめぎ合いなど)ゆえに、従業員は本来期待されている業務を遂行できなくなる可能性が高まり、それがさらなる信頼の低下につながりかねない。

 ただし、ここで重要なのは、信頼する能力の低下を招いている要因が、新型コロナウイルス感染症の影響に限ったことではなく、仕事や組織のデザインの仕方に関する現在のトレンドに結びついていることだ。したがって、持続可能な信頼のモデルを築くためには、リーダーは根本的な問題に対処する必要がある。