
コロナ禍でリモートワークがいっきに拡大したことで、企業は新たな問題に直面している。相互信頼の欠如だ。リモートワークでは、同僚の行動を知る手がかりが限られてしまうため、相手の行動が予測できず、信頼の基盤を築くことが難しくなる。そうなれば、社内の士気が下がるだけでなく、生産性の低下やイノベーションの停滞を招いてしまう。リーダーと従業員、あるいは従業員同士の間にあったはずの信頼関係を回復するには何をすべきか。リーダーが取るべきステップと避けるべきステップについて論じる。
ある地方銀行で、約3分の1の従業員がオフィスでの勤務を再開した。頭取は週1回、従業員全員参加のタウンホールミーティングをビデオ会議で行っており、従業員は頭取や他の幹部への質問を無記名で提出することを奨励されている。
そうした中、「在宅勤務をまだ続けている人が本当に働いているかどうか、どうしてわかるのですか」という問いが、ここ6週間ほどで急増している。リモートで働く人々のオンスクリーン時間や活動を追跡できるよう、特定のテクノロジーを使ってモニタリングするよう提案する声さえあった。
頭取は毎週、従業員を安心させようと、業績は計画通り順調であり、生産性を表す指標(融資数など)は期待値を超えていると報告している。
「しかし、腹立たしいことに、私がどれだけていねいに説明しても、数字やその他のエビデンスを示しても、従業員には伝わらないらしい」と、この頭取はこぼす。「私が従業員を信頼できるのだから、従業員同士も互いを信用できると考えるのが当然ではないだろうか。だが、そうではないのだ」
リモートワークのストレスが組織文化や人々の善意を蝕みつつあるいま、この銀行が直面している信頼の危機は、珍しい問題ではなくなってきている。
新型コロナウイルス感染症のパンデミック初期には、従業員が自宅で使えるように企業が大量のノートPCを一晩で用意したなど、組織による英断が数多く語られた。そしてしばらくの間、人々は互いの行動を好意的に解釈し、妥協もやむをえないとして、たとえば子どもの在宅学習やその他の新たな要求に対応するために、時には締め切りに遅れても許容した。
筆者らは過去8カ月間、信頼の危機という問題と格闘している数十社の協力を得て、調査を行なった。対象となった企業の業界は、プロフェッショナルサービス、石油・ガス、金融・保険、ヘルスケア、通信、自動車、テクノロジーなど多岐にわたる。
当初は「バーチャルで勤務するための解決法を見つけた」という前向きだったセンチメントが変わる過程を、我々は目撃してきた。どの企業でも、従業員個人への信頼から人間関係、組織に対する信頼に至るまで、組織内の信頼が根本からリスクにさらされているという認識へと移行したのである。
デジタルモニタリングを導入したという回答が増加していることも、解決法を見出したという企業幹部の自信が揺るぎつつあることを示唆している。
たとえば、リモートワーク用の時間追跡ツールを提供するハブスタッフは2020年2月以降、英国の顧客が4倍に増えたと発表している。ウェブカメラで従業員の写真を一定間隔で撮影し、それを同僚と共有するテクノロジーを持つスニークは、5倍増になったと発表している。
企業幹部が従業員との間に、そして従業員同士の間に信頼関係を再構築し、維持することは不可欠である。これを怠る企業は、士気の低下よりもはるかに大きなリスクを負うことになる。信頼度がいっきに下がることで、退職者数の増加や生産性の低下、さらにイノベーション停滞の可能性が高くなるからだ。