DHBR最新号は、競争と協調を統合させる戦略思考「コーペティション」の特集です。急激な技術革新やグローバル化などにより、ビジネスのルールやプレーヤー、付加価値、範囲、戦術が移ろいやすい今日、その重要性は増しています。
cooperation(協調)とcompetition(競争)。この2つからの造語を、新しい戦略思考を表す言葉としてタイトルにした名著Co-opetition(邦訳『コーペティション経営』、残念ながら邦訳書は絶版)。同書が1996年に発行されて以来、この戦略思考は経営で、より多く実践されるようになりました。
著者のアダム・ブランデンバーガー氏とバリー・ネイルバフ氏が、今日までに見出した事例をもとに、コーペティションの効用とリスクを分析した論文を中核にしたのが、今号の特集です。
たとえば、自社と他社の相互依存関係において、価値を創造する段階では協調し、価値を分配する際には競争する。その中で、自社が獲得できる価値を増やす戦略を考えます。論拠となるのは、ゲーム理論です。
急激な技術革新やグローバル化などにより、ビジネスのルールやプレーヤー、付加価値、範囲、戦術が移ろいやすい今日、この戦略思考の重要性は増しています。
特集では最初に、変化の激しい通信市場で、価値創造を続けてきたKDDI社長の髙橋誠氏に、コーペティション経営の実際を伺いました。成功のカギは、持続的成長を見据えた利他の精神にあるようです。
特集2番目が前述の中核論文で、アップルとサムスン、グーグルとヤフーなど多くの実例から、コーペティション経営の何たるかを、平易に解説しています。実践的フレームワークを提示していて、経営への即効性があります。
特集3番目は、『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』の著者で、イェール大学准教授の伊神満氏が、「日本の液晶メーカーが韓国・台湾に敗れた理由」を題材に、「競争と協調のジレンマ」を論じます。
具体的には、競合企業同士の協調が時に談合として認定され、処罰されるリスクや、協力した相手がのちに強力なライバルに成長してしまうジレンマを分析します。
ところで、競合企業と協調する場合、自社独自の経営戦略といかに整合性を取ればよいのでしょうか。自社の内部では、経営者や従業員などにどのような葛藤が生じるのでしょうか。
100年に一度の大変革が襲う自動車産業で、トヨタ自動車との間でコーペティション経営を行うSUBARU社長の中村知美氏に、協調戦略の狙いや、勝機をどこに見るのかを聞いたインタビューが特集4番目です。
また、『コーペティション経営』では、「補完的生産者」の考え方が提起されました。特定のハードウェア企業にとっての特定のソフトウェア企業のように、自社の価値を高めてくれる存在です。この種の視点などから競争と協調を論じるのが特集5番目の論文です。
スラック・テクノロジーズとズームを比較して、巨大企業に対して、自力で戦うか、エコシステムで戦うかを論理的に詰めていきます。
前述の特集2番目の論文では、全世界の企業や国家が協調して臨むべき戦いとして気候変動対応を挙げ、コーペティションの今日的意義をまとめています。
実際にそれを実践するのが、マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏です。今号の巻頭インタビューでは、科学的知見に基づいて、気候変動対策として、経営者や政治家、消費者などがそれぞれ何をすべきかをゲイツ氏に聞いています。