データサイエンス関連の優先課題と
社内のデータサイエンティストの配置を考え直す

 社内で最も地位が高く、最も経験豊富なデータサイエンティストは、戦略的なデータサイエンス関連の課題に振り向けなくてはならない。センター・オブ・エクセレンスが担うべき役割の一つは、限りあるデータサイエンス関連資源を自社の最重要課題に投入しているかどうかをチェックすることと言ってもよいかもしれない。

 それ以外のデータサイエンティストたちには、社員の問題解決をその都度支援させたり、分析手法やグラフィックスの選択を助言したり、プロジェクトの結果がしっかりした土台に立脚しているか確認したり、大勢の人をトレーニングしたりさせればよいだろう。

 こうした方針を採用するのを妨げる最大の障害は、人々の視野が狭すぎることだ。ほとんどの企業幹部は、データサイエンティストが戦略面で価値を生み出せるとは思ってもいない。一方、現場に近いマネジャーたちは、データ関連であまり支援を求めようとしない。そして、データサイエンティストたちも、豊富なデータがある領域に引き寄せられがちなのだ。

データサイエンスについて視野を広げ、
その考え方を社内に発信する

 5年後の世界を想像してみてほしい。

 その時、あなたの会社はどの程度、戦略コンサルタントのラム・チャランが言うところの「マス(数学)・ハウス」に転換しているだろうか。どのくらい、全社でデータとデータサイエンスを活用しているだろう。5年後のあなたの会社で、データサイエンスはどのようなものとして位置づけられているだろうか。

・いまだに検討段階にとどまっている。
・時折、活用されている。
・競争力の源泉になっている。
・事業に欠かせない要素として全社に浸透している。
・これらの中間。

 データサイエンスをどのように位置づけるべきかについて、唯一絶対の正解はない。業種や個々の企業によって、大きな違いがある。それでも、この問いに向き合うことを先延ばし続けてきた企業があまりに多い。そろそろ、この問いを真剣に考えるべき時に来ている。

 スポーツに興味があるマネジャーは、NBAのダラス・マーベリックスヒューストン・ロケッツを手本にできるかもしれない。両チームは、あらゆる面でデータサイエンスを活用して、戦力補強、試合の戦術、入場料の設定などを行っている。単に、ほかのチームに先駆けて大勢のデータサイエンティストを採用しただけではない。データサイエンスをチームの編成と戦術の策定に、しっかりと組み込んだのだ。

 野球のメジャーリーグでは、ヒューストン・アストロズ、タンパベイ・レイズ、そして最近はロサンゼルス・ドジャースがデータ分析に力を入れている(ただし、アストロズの場合は、非倫理的な形でデータを活用していたのだが)。

 多くの企業は実践できていないが、自社の最も優秀なデータサイエンティストを(入手できるデータの量は少ないとしても)戦略的に重要な課題に投入すべきなのは、当然のことに思える。また、一握りの高給取りのデータサイエンティストにだけデータ関連の業務を任せるのではなく、すべての社員にデータサイエンスに関わらせることは、極めて理にかなったことに思える。

 長年にわたって多くの企業に助言してきた筆者らの経験から言うと、データサイエンスの活用で何よりも重要なのは、人材だ。より広い視野に立ち、そしてより戦略的に考えて、自社の人材とデータをうまく結びつけることができれば、好ましい成果を得られる可能性が高くなる。


HBR.org原文:4 Ways to Democratize Data Science in Your Organization, March 08 2021.