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かつて企業は意思決定を行う際、最終的な集計結果をもとに意思決定を行っていた。しかしデジタル化に伴い、精密かつミクロな意思決定が可能になった。価格設定、プロモーション、在庫配分などはアルゴリズムによるデジタル駆動の意思決定で高いパフォーマンスが実現できる。ただし、細かく管理しなければ、必要のないコストを投下し続けてしまうリスクがある。本稿では、デジタルマーケティングを筆頭に各領域で広がるアルゴリズムを適切に管理し、利益を上げるための方法を解説する。

アルゴリズムの最適化を実現する新たなアプローチ

 米国のある小売企業は、グーグルで100万件のキーワードに入札するため、年間5000万ドルを投下した。この支出は5億ドルの売上高をもたらした。ROAS(広告費用対効果)に換算すると10倍に相当する。同社はこの結果に非常に満足し、グーグル広告への支出を増やそうと計画していた。

 ところが、筆者が協力してキーワードレベルでのパフォーマンスを分析したところ、別の実態が明らかになった。全体的なパフォーマンスは高いものの、売上げをまったく生まない何千ものロングテールキーワードに年間700万ドルを費やしていたのだ。

 同社が用いたグーグルの入札アルゴリズムには、特定のキーワードが一時停止されるまでに支出額をいくらまで許容するかを決めるパラメータが埋め込まれていた。このたった一つのパラメータの数値を変更しただけで、同社は売上げに影響を与えることなく年間700万ドルを節約できたのである。

 何百万件ものキーワードに直面すると、ROASのような単純化された集合平均へと逃げ込みたくなるものだ(結局のところ、ここでの目標はROASであった)。しかし、細かい粒度で稼働するアルゴリズムを管理し最適化するには、集計的な結果だけでは不十分だ。

 アルゴリズムを理解してパフォーマンスを管理するためには、新たなアプローチが必要となる。

デジタル化にはアルゴリズムが必要

 かつて企業は最終的な集計をもとに活動していた。企業の持つメカニズムが精密ではなかったからだ。しかし、いまやデジタル技術によって、企業全体で精密かつミクロな意思決定が可能だ。これらの意思決定は量が多いため、自動化を必要とする。そして、ミクロな意思決定がどう行われるのかを決定づける前提、データ、ロジックを定義するのがアルゴリズムだ。

 このようなアルゴリズムは、デジタル駆動型のビジネスにおいて至るところに存在し、多岐にわたる領域で意思決定を行っている。たとえば価格設定、プロモーション、在庫配分、サプライチェーン管理、リソースのスケジューリング、与信判断、不正対策、デジタルマーケティング、製品のソート順序の決定、レコメンデーション、パーソナライズなどだ。

 これらの意思決定に共通する特徴は、何らかの内在的な不確実性とのトレードオフを伴うことだ。たとえば、デジタルマーケティングの意思決定は量と利益のトレードオフを伴う。サプライチェーンの意思決定は余剰と供給力のトレードオフを、リソースに関する意思決定はサービスとコストのトレードオフを伴う。

 トレードオフに対処しながら継続的な改善を促進するためには、このような新しい意思決定システムを管理して最適化しなければならないことを、ビジネスリーダーは認識している。では、どうすればよいのか。

 測定指標やKPI(重要業績評価指標)は経営管理のためのメカニズムだが、以降で説明するように、従来型の報告のアプローチは、アルゴリズム駆動型の新たな意思決定には有効ではない。