アルゴリズムの構造
意思決定アルゴリズムを管理するには、構造を理解することから始める必要がある。そのためにはアルゴリズムの特徴を「4つのP」に分解し、それぞれで生じるトレードオフに焦点を当てると効果的だ。
●目標(Purpose):アルゴリズムの目標は何か
最も重要な目標と、すべての制約を定義する。通常、複雑な企業目標(例:利益)と、その代わりとなる単純で限定的な目標(例:ROAS)のどちらかの選択にはトレードオフが伴うことを理解すべきだ。たとえば、シンプルであるというメリットを持つROASだが、その制約の範囲内で売上げの最大化を選ぶのか。それとも複雑なことを承知で利益の最大化を選ぶのかによって、意思決定のロジックは大きく違ってくる。
●精度(Precision):ミクロな意思決定は、どれほどパーソナライズされるのか
何百万件ものキーワードに入札する小売企業の場合、すべてのキーワードに単一のROAS目標を設定すべきか、あるいは何百万件もの「パーソナライズされた」キーワードごとに目標を設定するのか、その中間のどこかにすべきなのか。ここでのトレードオフは経営管理に関わる。最も粒度の細かい戦略を設けるために必要な人的資源を投入する努力は、報われるだろうか。
●予測(Prediction):不確実性はどのようにモデル化されるのか
予測とは単純な推定(既知のデータをもとに未知の数値を予測すること)か、あるいは非常に複雑なAI・機械学習モデルの場合もある。加えて、ミクロな意思決定の頻度が増すにつれて、予測モデルを単純化することができる。
例として、欧州のある航空会社はかつて、週単位で価格を設定しており、搭乗率を予測する非常に高度な予測モデルを開発した。同社が進化するにつれ、価格は週ごとから数分ごとに変わるようになり、予測モデルを必要とせずに実需に対応できるようになった。ここでのトレードオフは、予測の正確さ、解釈のしやすさ、判断の頻度で生じている。
●方針(Policy):実際のミクロな意思決定を左右するルール、ロジック、数理は何か
ここでのトレードオフは、単純で理解しやすいアルゴリズムと、より優れた結果を生むが専門家にしか理解できない、さらに複雑な数式との間に生じる。たとえばキーワード入札の定義には、単純なルールを用いることも、複雑な回帰式を用いることもできる。
これらの例は、ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンが考案した「満足化」(satisficing)という概念を具現化するものだ。つまり、単純化された世界での最適解を見つけるか、より現実的な世界で満足できる解を見つけるかの選択である。
「完璧な」アルゴリズムは存在しない。しかし私たちはいまや従来とは異なる考え方をして現実世界に見合った「ほどよい」解を見つけるための、データとツールを手にしている。