一人よがりのトップ営業

 世界的な化学メーカーの経営トップ(仮に「ロバート」とする)は数年前、ある主要顧客への面会を思い立った。顧客の抱える課題も自社の取り組みもよく知らないまま初顔合わせに臨んだため、悪印象を与えてしまった。それに輪をかけて、先方の需要拡大時には生産能力を青天井で増強するという、空手形まで切ってしまった。アカウントマネジャーのナディンがこの会合と約束について知ったのは、事後、先方の窓口役を通してだった。結果的に、ナディンと部下たちが関係修復に向けて獅子奮迅したにもかかわらず、両社の関係は冷え切ったままである。

 同じ頃、巨大製薬会社のメルクはデータ処理システムの外注を決めた。発注先の選定を任されたマネジャーたちは、数社からの提案を吟味した末、アクセンチュアに発注することで合意した。

 ところが、契約締結の直前になり、メルクのCEOのもとをIBMのサミュエル・パルミサーノCEO(当時)が訪れた。パルミサーノは営業部門で出世の階段を昇り、重要な戦略的顧客に焦点を合わせたインテグレーテッド・アカウンツ・プログラムを推進した実績を有していた。トップ同士の関係性を醸成して活用するメリットを知り尽くした人物でもある。受注を勝ち取ったのはIBMだった。