3つの自己を理解する
1つ目の自己は、生まれてすぐに現れる「子どもの自分」だ。3つの自己の中で最も無力でリソースが少なく、脅威にさらされやすい。また、最も遊び心があって、好奇心旺盛だ。
子ども時代はたいてい無力で、自分の世話をしてくれる相手を頼りにする。認識、能力、自律性が高まるにつれ、「子どもの自分」の無力感や弱さは、みずからにとってますます耐えがたいものになる。そこで、直面する脅威に対処するために、私たちは2つ目の自己を形成し始める。それが「防御者」だ。
筆者らが最初に、3つの自己について執筆した時点では、はっきりわかっていなかったのだが、最終的には防御者が人生の支配者になる。防御者は、身の危険を感じた時にだけ現れて、闘争・逃走反応を起こすのではなく、人生の大半を占める重要な自己だ。自分が社会においてまとう、ペルソナのようなものと考えてほしい。
防御者は、ストレスがない状態では集中力があり、生産的で、思いやりや愛嬌すらある。しかし、自分の価値を脅かすと思われるものに対しては、過度に警戒する。
アリスの防御者が闘争・逃走反応を起こすと、彼女の理性的で思慮深い思考能力は、恐怖と防御に取って代わられる。あなた自身が最近、取り乱した時のことを思い出してほしい。どのように反応しただろうか。アリスのように怒りや批判、非難をぶつけたかもしれない。厳しい自己批判に走ったり、気を紛らわせたり、心を麻痺させたりして、自分の気持ちを押しやったかもしれない。
これらはすべて、防御者が、子どもの自分が経験する危険や無価値、恐怖から自分自身を守ろうとしていることによる。
最も能力が高く、成熟した自己が「大人の自分」だ。自分が最高の状態にある時に現れる。たとえば、自分の内側に恐怖や怒りが湧き上がってくるのを観察することができ、その感情を行動に移すのではなく、注意深く、思いやりを持って扱うことができるのは、「大人の自分」だけだ。「大人の自分」はまた、同僚や直属の部下、友人が悩んでいる時に、その相手の感情を批判せずに受け止めることを可能にする。
しかし、「大人の自分」になるのは、驚くほど難しい。高いストレスにさらされている時には、それが最も必要となるにもかかわらず、特に困難だ。
3つの自己を区別できるようになるだけでも、大きな一歩となる。平静な親が、泣き叫んだりかんしゃくを起こしている子どもを落ち着かせ、安全な場所をつくるのと同じように、大人の自分は、子どもの自分の苦しみに脅威を感じたり、圧倒されたりするのではなく、思いやりを持って子どもの自分を安心させ、苦悩や悲嘆を和らげる。
自分のすべてを理解し、受け入れることができるのは、この大人の自分だけだ。みずからの内側により安全な環境をつくり、子どもの自分が持っている最高の資質、すなわち自発性、好奇心、創造性、驚き、喜びを解放させる。
心強いのは、小さな意識の変化でも、行動に大きな影響を与えられることだ。アリスは、次第に自己を観察できるようになった。初めのうちは、脅威に直面して防御者としての自分が立ち上がり、それから子どもの自分が弱さと恐怖を深く感じた。アリスは、それまでに感じたことのない、子どもの自分と防御者としての自分に対する共感を覚えた。
アリスは、自分が最善の状態の時であれば、2人の子どもが泣きわめいても落ち着かせて安心させることができるように、自分に対しても同じことができることに気づいた。
心が平穏な状態になり、自分を制御できるようになったアリスは、同僚に対しても思いやりを持って接して、仕事の問題に圧倒されることなく、創造性が高まり、みずからが望む親になることができた。
そして、筆者らが彼女のチームによりオープンな対話を促したところ、チームは互いをよりサポートし合えるようになった。