エネルギー消費量と
温室効果ガス排出量はイコールではない
まず、あるシステムが消費するエネルギーの量と、排出する温室効果ガスの量はイコールではない。エネルギー消費量を明らかにすることは比較的容易だが、正確な「エネルギーミックス」の割合を把握しない限り、エネルギー消費量から温室効果ガス排出量を推し量ることはできない。
エネルギーミックスとは、ビットコインの場合で言えば、ビットコインのマイニングを行うコンピュータが消費する電力の電源構成のことだ。たとえば、水力発電により生み出された電力は、それと同じ量の石炭火力発電の電力に比べて、環境に及ぼす影響がかなり小さい。
ビットコインのエネルギー消費量を把握することは難しくない。ビットコインのマイニングと取引の処理を行うために用いられているコンピュータ演算能力の合計を調べて、そのためにコンピュータが消費するエネルギーの量を(根拠をもって)推測すればよい。
しかし、温室効果ガス排出量を正しく把握することは、それよりはるかに難しい。ビットコインのマイニングは極めて競争の激しいビジネスであり、マイニング業者は事業活動の詳細を開示することに前向きでない場合が多い。
ビットコインのマイニングが世界のどこで行われているかという情報について、最良の推測を行っているのは、前出のCCAFだ。CCAFは、主だったマイニングプール(採掘者のグループ)と協働して、マイニング業者の所在地情報の(匿名化された)データを集めている。
CCAFはこのデータに基づいて、国ごとに、場合によっては州ごとに、マイニング業者が使っているエネルギー源の構成を推測できる。とはいえ、そのデータにはすべてのマイニングプールの情報が含まれているわけではないし、データが最新なわけでもない。
すなわち結局のところ、ビットコインのエネルギーミックスに関しては、おおむね明らかになっていないのだ。それに主だった分析は、エネルギーミックスを国レベルで示すに留まっている場合が多い。その結果、中国のように、国内でエネルギー事情に大きな違いがある国の状況を正確に描き出せていない。
このような事情を反映して、ビットコインのマイニングで用いられているエネルギーのうち、再生可能エネルギーがどのくらいの割合を占めているかに関しては、推計により大きな開きがある。
2019年12月に発表されたあるレポートは、ビットコインのエネルギー消費の73%がカーボン・ニュートラルだと推計していた。中国南東部や北欧など、マイニングが活発な地域で水力発電の占める割合が大きいことが主な理由だ。一方、2020年9月のCCAFの推計では、その割合は39%程度に留まるとされている。
しかし、小さいほうの39%という数値が正しいとしても、この割合は米国の発電システムにおける再生可能エネルギーの割合の2倍近くに達する。この点を見れば明らかなように、エネルギー消費量に基づいて、機械的にビットコインの正確な温室効果ガス排出量を導き出せるわけではないのだ。
ビットコインは
他の産業で使えないエネルギーを
使える可能性がある
ビットコインのエネルギー消費には、他の大半の産業と大きく異なる点がある。それは、ビットコインがどこででもマイニングできるという点だ。
世界で用いられているエネルギーのほとんどは、エンドユーザーがいる場所の比較的近くで生産せざるをえない。しかし、ビットコインの場合、そのような制約はない。そのため採掘者たちは、ほかの産業ではほぼ利用できない電力源を活用できるのだ。
そのような電力源の中で最もよく知られているのが、水力発電だ。中国の四川省と雲南省の雨季には、途方もない量の再生可能な水力エネルギーが毎年消費されずに余っている。電力の生産能力が地元の電力需要を大幅に上回っていて、しかもバッテリー技術がまだ十分に進歩しておらず、電力を貯蔵したり、需要がある都市部に輸送したりすることも割に合わないのだ。
これらの地域は、地球上で最も余ったエネルギーが多い土地と言えるだろう。したがって、四川省や雲南省が中国におけるビットコイン・マイニングの中心地になっているのは不思議でない。世界全体のビットコイン・マイニングに占める割合は、乾季でも10%近く、雨季には50%に達する。
カーボン・ニュートラルなビットコイン・マイニングの手段としては、油田やガス田で発生する遊離型天然ガスも有望だ。今日の原油掘削プロセスでは、副産物として大量の天然ガスが発生する。この天然ガスは電力源として利用されることなく、環境を汚染するだけだ。
遊離型天然ガスは不便な土地にある油田・ガス田でしか得られないので、これまでこれをエネルギー源としてうまく活用できる産業はほとんどなかった。しかし、米国のノースダコタ州からロシアのシベリアまで、多くのビットコイン・マイニング業者は、そのままであれば活用されずに終わっていたこのエネルギーを活用し始めている。なかには、ガスを燃焼させる方法を工夫して、温室効果ガスの排出量をさらに減らすことを目指している企業もある。
こうした企業は、ビットコイン・マイニングの世界でまだ少数派にすぎない。それでも、おおざっぱな計算によれば、米国とカナダで発生する遊離型天然ガスだけで、すべてのビットコイン・ネットワークを動かすことが可能だ。
厳密に言えば、遊離型天然ガスをマネタイズしたとしても、温室効果ガスは排出される。また一部の論者が指摘しているように、このような取り組みは化石燃料ビジネスを後押しする性格を持つ面がある。エネルギー企業が原油掘削に投資する金額を増やしてしまうのだ。
それでも、ビットコインのマイニング業者がエネルギー企業にもたらす収益は、化石燃料に依存している他の産業の電力需要に比べれば微々たるものだ。しかも、他の産業の化石燃料への需要は当分なくなりそうにない。化石燃料の消費が当分続くことを前提にすれば、原油掘削に伴って発生する副産物を有効活用して、環境への影響をさらに減らすことができれば、トータルでは好ましい結果を生み出せる。
この図式は、アルミ製錬産業と驚くほどよく似ている。ボーキサイトの鉱石をアルミニウムに変えるプロセスでは、膨大な量のエネルギーが必要とされる。一方、アルミニウムの輸送コストは、法外に高いわけではない。
そこでエネルギーが余っている国はしばしば、その強みを活かすためにアルミニウム製錬所を建設する。アイスランドや中国の四川省、雲南省など、地元で消費するよりも多くの電力生産能力を持っている国や地域は、アルミニウムを生産して販売することを通じて、実質的にエネルギーを他の土地に「輸出」していると見なせる。
そして今日、アルミニウム製錬所への投資を後押ししたのと同じ要因により、これらの地域でビットコイン・マイニングが活発になりつつある。ニューヨーク州のマッセナで操業していたアルコアのアルミニウム製錬所(近くの水力発電所の電力で稼働していた)のように、アルミニウム製錬所がビットコイン・マイニング施設に転用されるケースも少なくない。