ビットコインの取引よりもマイニングのほうが
エネルギー消費量がはるかに多い

 ここまで述べてきたように、エネルギーがどのように生産されるかも重要な要素だが、ビットコインが実際にどのようにエネルギーを消費していて、その消費のあり方が将来どのように変わりそうかという点も大きな意味を持つ。問題は、この面でも誤解がしばしば見られることだ。

 ビットコインの「取引1件当たりのエネルギーコスト」が高いことを問題にするジャーナリスト研究者は多い。しかし、この指標は誤解を招く。ビットコインのエネルギー消費の圧倒的大多数は、取引の過程ではなくマイニングの過程で発生する。ビットコインが発行されたあと、取引の真正性を担保するためにかかるエネルギーは極めて少ない。

 そのため、ビットコインがこれまでに消費したエネルギーの総量を取引件数で割っても意味がない。消費されるエネルギーのほとんどは、取引を支えるためではなく、マイニングのために用いられているからだ。

 この点での誤解は、もう一つのきわめて重大な誤解にもつながっている。その誤解とは、ビットコインのエネルギー消費が爆発的に増加し続けるというものだ。

ビットコインのエネルギー消費が
歯止めなく増加し続ける可能性は小さい

 これまでビットコインのエネルギー消費量が急速に増加してきたため、しまいにはすべてのエネルギーがビットコインに消費されてしまうのではないかと恐れる人が時々いる。

 2018年に発表されて大きく報道された(最近『ニューヨーク・タイムズ』紙でも引用された)リポートも、このような考え方を前提にしている。このリポートでは、ビットコインが原因で、やがて地球温暖化が摂氏2度進行するというショッキングな予測を示している。しかし、この予測通りにはならないと判断すべき根拠がある。

 第1に、ほかの多くの産業と同様に、ビットコインのエネルギーミックスでも化石燃料への依存度が年々低下している。米国では、株式を上場していて、ESG(環境、社会、ガバナンス)重視の度合いを強めているマイニング業者が市場シェアを増やしている。中国は最近、内モンゴル自治区(今日の世界で有数の石炭依存度の高い地域だ)で石炭火力発電に基づくマイニングを禁止した。

 また、ビットコイン・マイニング業界では、多くの企業が「暗号資産気候協定」のような取り組みを始めている。これは地球温暖化に関するパリ協定を参考にしたもので、ビットコインの温室効果ガス排出量を減らす必要性を主張し、その目標に向けて行動することを約束している。

 そして、太陽光発電などの再生可能エネルギーの効率性が高まり、マイニングに利用しやすくなっていることも見過ごせない。この点は、ビットコイン・マイニング業者が再生可能エネルギーへの転換を進める強力なインセンティブとして機能するかもしれない。

 しかも、マイニング業者が現在のペースで際限なくマイニング事業を拡大させ続けることは考えにくい。ビットコインのプロトコルはマイニングに報酬を与えているが、その報酬制度には、マイニングの拡大を抑制する仕組みが組み込まれている。

 現在、マイニング業者は、取引を検証した時だけでなく、マイニングを行うことにより少額の報酬を受け取っている(マイニングの報酬は、マイニング業者の収益の約10%を占めている)。加えて、みずからがマイニングしたビットコインを売却した際の売却益もマイニング業者の収益源だ。

 ところが、ビットコインのプロトコルでは、ビットコインの発行に伴ってマイニング業者が手にする報酬を4年ごとに半分に減らしていくものとしている。したがって、ビットコインの相場が4年ごとに2倍のペースで上昇していかない限り(経済学的に考えて、通貨がそのような勢いで値上がりすることはまずありえない)、マイニング業者がビットコインの発行で得る収益は次第に縮小し、最終的にはゼロになる。

 では、取引による手数料収入はどうか。ビットコインのネットワークが処理できる取引の量には、おのずと上限がある(1日当たり100万件に満たない)。それに、ユーザーが支払ってもよいと考える手数料の金額には限度がある。そのため、手数料収入が青天井で増えていくこともありえない。

 それでも、そうした取引手数料だけを目的にマイニングを続ける業者もなかにはあるだろう。実際、そのような業者が存在しなければ、ビットコインのネットワークは機能しなくなる。しかし、経済的な旨味が縮小すれば、マイニングへの投資を促す経済的なインセンティブも縮小する。

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 ビットコインが環境に及ぼす影響に関係してくる要素は無数にある。しかし、そのすべての根底には、ある共通する問いがある。それは、数値データで答えを導き出すことが難しい問いだ。その問いとは、「ビットコインには、環境に及ぼす影響にふさわしい価値があるのか」というものである。

 ここで見落としてはならないのは、ビットコインが環境に及ぼす影響について指摘されている懸念の多くが、誇張されていたり、不正確な前提に基づいていたり、ビットコインのプロトコルに関する誤った理解に基づいていたりするということだ。

 すなわち、ビットコインが実際に生み出す悪影響は、思っているほど深刻でない可能性が高い。とはいえ、社会で価値を生み出すほぼすべてにものがそうであるように、ビットコインは資源を消費する。この点は否定できない。

 これはエネルギーを消費する産業すべてに言えることだが、こうした環境面の懸念を認めて、問題に対処し、温室効果ガス排出量を減らすために誠実に努力することは、暗号資産業界に課された役割だ。

 そして、最終的に暗号資産業界は社会に納得させなくてはならない――ビットコインが社会に生み出す価値は、そのために要する資源を費やすに値するものなのだ、と。


"How Much Energy Does Bitcoin Actually Consume?" HBR.org, May 05, 2021.