ルーターからリーダーへ
喜ばしいのは、ミドルマネジャーにはまだ重要な役割があることだ。ただ、その役割は進化する必要がある。
何十年もの間、ミドルマネジャーは「ルーター」の役割を担ってきた。プロジェクトの状況を把握し、チーム間で情報をやり取りして、若手の従業員と上層部の間を取り持ってきた。リモートワークでは、こうしたコミュニケーションはこれまで以上に困難だが、それを管理するのに最も効果的な手法も変わってきている。
マネジャーは手作業で情報を伝えるのではなく、作業を自動化および補完できるデジタルツールを特定し、導入すべきだ。
筆者らの調査でストレス要因の上位に上がったのが、「他人の仕事量を把握するのに費やす時間」だった。リモートワークやハイブリッドワークの管理に最適なツールを活用し、チームづくりや人材育成にエネルギーを集中させることで、マネジャーはより効率的になり、ストレスが少なくなる。
この変化を実現するには、ミドルマネジャーもエグゼクティブも、情報の流れに対する支配を緩め、チーム間で共有すべき情報をミドルマネージャーが決める必要のない「常時オープンな」文化を受け入れる必要がある。
マネジャーは、従業員からの監視や日々の説明責任に慣れなければならない。その代わりに、従業員は連携し、迅速で優れた意思決定を行うために必要な環境を得ることができる。
管理職になることが
唯一の昇進の道であってはならない
当然ながら、ミドルマネジャーは他と無関係で存在するわけではない。ミドルマネジャーを成功に導くためには、そもそも誰がミドルマネジャーになるのか、デジタルファーストの環境下での総合的なキャリア開発はどうあるべきかについて、組織は再考する必要がある。
多くの組織では、成果に貢献した個人が昇進するには、マネジャーになるしかない。その結果、大勢のミドルマネジャーが誕生し、その多くはリーダーになることを望んでいない。
また、キャリアアップを望むすべての従業員が、組織が本当に必要とするタイプのマネジャーになる資格があるかどうか、あるいは興味があるかどうかにかかわらず、限られた研修リソースを大人数で共有しなければならない。
この問題に対処するには、組織は2本の柱から成るアプローチを取る必要がある。
第1に、「ルーター」としての業務が大幅に自動化される中で、ミドルマネジャーは多様な従業員間のつながりや帰属意識を高め、人材を育成するという重要な職務に専念できるようにしなければならない。そのためには、コミュニケーションスキルやインクルージョンのテクニック、指導などの研修への投資が必要だ。また、ミドルマネジャーの数を減らし、より少数の献身的なリーダーの支援にリソースを集中させなければならない。
第2に、企業は専門知識のある功労者がマネジャーにならなくても、実証された専門性と成果に基づいて肩書きが昇格し、報酬が増えるようなキャリアラダー(キャリアのはしご)を構築する必要がある。
多くの人は野心的だが、人を管理することにはあまり興味がない。このような従業員に魅力的なキャリアパスを提供することは、彼ら自身の成長と仕事の満足度を高めるためにも、また、ミドルマネジャーになった人がその仕事をやりたいと実際に思えるようにするためにも不可欠だ。
たとえば、スラックではエキスパートトラックとチーム開発トラックという、等しく重要な2つのリーダーシップのキャリアパスを設けている。エキスパートトラックでは、成果に貢献した個人は、技術的な専門性だけでバイスプレジデント(VP)レベルまで昇進することができる。人材管理やチーム開発、OKR(目標と主要な結果)の報告などに焦点を移す必要はない。
一方、チーム開発トラックは、エンジニアリングなど技術的な職務の専門知識があるだけでなく、チームのミッションや目標を明確にし、障害を取り除き、リソースを調整して、個人を指導・育成するというマネジメントの本質に関心と能力を持つ人のためのキャリアパスだ。
ミドルマネジャーは、破綻したビジネスプロセスを取り繕うために利用されがちだ。彼らの重要なタスクは、持続可能なプロセスではなく、個人の慣習化した記憶に依存している。このようなプロセスの欠陥を解消するには、デジタルツールを導入して、技術的な専門知識であろうと人材管理であろうと、中枢にいる人が自分の得意分野に集中できるようにすることが重要だ。
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ミドルマネジャーの難題を解決するために、さまざまな研究が行われている。HBRだけでも、「トップが認識すべきミドル・マネジャーの貢献」「 Why Being a Middle Manager Is So Exhausting」(ミドルマネジャーが疲弊している理由)「The End of the Middle Manager」(ミドルマネジャーの終焉)などを掲載している。
この1年に起きた、分散された働き方への急速なシフトは、現代のミドルマネジャーが直面する課題を拡大させた。それと同時に、デジタルファーストの新しい世界におけるマネジャーの役割を再考する、またとない機会を生んだ。
デジタルツールによって、より自由で民主的な情報の流れが実現すると、企業のトップ層とボトム層の間の情報伝達だけを担うマネジャーは、もはや不要になる。マネジャーは、ミドル(中間)にはまりこむのではなく、組織の真の活力源である人材を育て、結びつけるという、限りなく重要な仕事に集中できるようになるべきだ。
"It's Time to Free the Middle Manager,"HBR.org, May 21, 2021.