『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2021年8月は、「特集1 ハイブリッドワーク」と「特集2 中国とどう向き合うか」の2大特集です。
コロナ禍で余儀なくされた在宅勤務ですが、ワクチン接種が広がり、出社勤務も徐々に増えています。リモートワークとオフィスワークには、それぞれに一長一短があります。両者をうまく組み合わせた「ハイブリッドワーク」をいかに構築し、よりよい働き方を実現するにはどうしたらいいか、企業は早急な対応が求められています。その方向性を斯界の第一人者らが考えたのが特集1です。
『ワーク・シフト』『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』などのベストセラーで知られるロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏が、このテーマに挑んだのが、1番目の論文です。
在宅か出社かの二者択一ではなく、場所と時間の2軸で4分類し、組織と従業員の生産性と満足度を高める方法を研究しています。働き方を変えると、新たな課題が生じます。それへの対処はマネジャーの役目として、(1)職種と業務の性格、(2)社員の個人的希望、(3)プロジェクトとワークフロー、(4)包摂と公平性、の視点で論じています。
2番目の論文は、在宅かオフィスかをみずから選べることの効果として、創造性の向上を取り上げます。東京大学大学院准教授の稲水伸行氏が、ABWやi-dealsという話題のコンセプトから、コロナ禍における研究や日本マイクロソフトのケースを引きながら解き明かしています。
オフィスの機能をあらためて検討したのが、3番目の論文です。オフィスが、「個人が業務を遂行するための場」から「コラボレーションを生むための人間関係の拠点」へと変化している、という知見に基づいて、オフィスの価値をデザインするものです。最新技術により、オフィスを新たな場へと変貌させた先進企業の事例も紹介しています。
さらに、ハイブリッドな職場での「マネジャーの役割」を、公平性、共感力、心理的安全性の各視点から論じた3つの小論文を編集しました。
同じように迅速な対応が求められているのが、対中国ビジネスです。HBRの中国特集と、それに基づく日本総合研究所上席理事の呉軍華氏の論文で構成したのが特集2です。その第1論文は、オックスフォード大学教授のラナ・ミッター氏らによる、欧米人の中国誤解論です。中国共産党の影響力やその歴史への無理解が、対中政策の過ちの根底にあるとして、現実直視を呼びかけます。
米中対立が激化する中、安全保障上、相手国の影響を強く受けないように進めているのが、デカップリング(分離)政策です。第2論文はこの政策によって企業が直面する課題と、その対策について、4つのカテゴリーに分けて分析しています。
第3論文は、中国人民のテクノロジーに対する受容力と順応力を高く評価し、中国の命運を握るのがイノベーションであるという視点で論じています。
第4論文で、呉氏は上記3つの論文を論評し、中国の支配体制がその成長を支える構造と内在する限界を明かしたうえで、外国企業の対中戦略の再考を促しています。