歴史と心理からの中国分析

 経営者と管理職、企画部と人事部、定期購読と書店購読など、多様な読者ニーズに1つの特集では応え切れない時や、旬の特集ネタが2つあって1ヶ月後の発行では腐ってしまう場合に、2大特集になります。

 最近では2021年4月号の「イノベーションの法則」と「仕事と子育てのマネジメント」、2020年8月号の「気候変動」と「不安とともに生きる」が2大特集で、第1が長期課題、第2が短期課題(コロナ関連)への対応で、今号はその反対です。

 気候変動や中国権威主義の台頭は、いわゆる「ブラック・エレファント」(顕在化しているのに放置しがちな巨大リスク)です。しかし、悠長に構えてはいられません。後者の事例は、香港です。民主化の兆しがあった雨傘運動から、先日の「リンゴ日報」廃刊まで僅か7年間。規制は少しずつ強化されていきました。

 じわじわと相手を追い詰め、「戦わずして勝つ」。中国と対峙するには『孫子』を学べ、とグレアム・アリソン氏(ハーバード大学ケネディ行政大学院初代学長)は、『米中戦争前夜』(ダイヤモンド社)で説いています。4年前の発行ですが、本特集を読まれて、中国の台頭についてさらに考えたい方にお薦めです。

 アリソン氏は、米中核戦争、気候変動、核アナーキー(核兵器拡散)、グローバルテロを、4つのメガ脅威として、冷戦時の米ソと同じく、競合関係にある米中が共有課題と捉えて、協力して対応しなければいけない、と論じます。

 同書は、「古代ギリシャでの新興国アテネの台頭とそれが覇権国スパルタに与えた恐怖が、両国の戦争を不可避にした」という歴史家トゥキディデス著『ペロポネソス戦史』の結論を基に、新興国と覇権国間のパワーシフトが孕む心理的葛藤を「トゥキディデスの罠」と称します。その視点から、過去500年間に起きた16件の覇権争いを分析し、中国と米国の戦争回避策を提示します。

 歴史と心理からのアプローチは、本特集の著者たちに通じます。第1論文のラナ・ミッター氏の主著『五四運動の残響』(岩波書店)は、欧米中心の近代世界に対する中国の闘争を描いています。

 1919年5月4日の天安門、日本の対華21ヶ条要求への抗議運動がその名の由来です。列強の中国侵略に対するナショナリズムに基づく抵抗や、儒教など旧来の思考等に対する魯迅などの「新文化運動」における、多くの中国人の心情を活写しています。「民主」と「科学」といった多元で自由な価値観を求めた運動が、1989年の天安門事件を経て、どのように"残響"しているか。五四運動は、今日においてなお、為政者や抵抗者などがそれぞれの立場から利用し、継承している、と論じます。

 一方で、ミッター氏は他の論文「中国が望む世界」(Foreign Affairs, January/February(邦訳『フォーリン・アフェアーズ・リポート』2021年1月号))では、「中国の力は権威主義、消費主義、グローバルな野心、テクノロジーの集合体であり、それにより国際秩序を作り変えることを望んでいるが、それに対する最大の障害は、アメリカの敵意ではなく、中国の中核的アイデンティである権威主義だ」と、今日の課題を指摘しています。

 その権威主義を、本特集の第4論文でも呉軍華氏が、歴史と心理から分析しています。また、呉氏が指摘する視点からエドガー・スノー著『中国の赤い星』(筑摩書房)を読みますと、同書が米国人に中国への共感を抱かせたということがわかります。毛沢東のスノーへの対応は、「戦わずして勝つ」の意図があったのかもしれません。

 このほか呉氏は、グローバル経済を分析する経営学の視点「底辺への競争」から、中国の発展を論じています。この視点からの研究はいま、世界で進んでいるようです。これについては、来月以降のブログで紹介させて頂きます(編集長 大坪 亮)。