
企業に対する顧客からの要求はますます高度になり、いまでは製品・サービスを通じて快適な暮らしを実現する以上のことが求められ、パーパスを発表する企業が増えてきた。しかし、社会問題や環境問題の解決を目指したり、サステナビリティを重視したりという大義を掲げるだけでは意味がない。自社が果たすべき意義を訴えるに留まらず、顧客のパーパスを理解し、その達成につながる顧客体験を提供することで、パーパス主導の成長を実現できると筆者は主張する。
2020年は多くの企業にとって、在宅勤務やオンラインショッピング、バーチャルイベントの興隆など、この数十年間のトレンドに追いつくことに忙殺された1年だった。これまで「望ましい」という位置づけだったものが、コロナ禍を経て「必須」のものになったが、そのような変化に対応する準備ができていない企業があまりに多かった。
2021年に入ると、コロナ以前から進行しつつあったその他のトレンドも、コロナ後の時代に企業が成功を収めるうえで極めて重要なものであることが明らかになってきた。具体的には、会社のパーパスや顧客体験が、成長の原動力としていっそう重要になり始めたのだ。
最近は毎月のように、これまで冷徹に利益と効率を追求する姿勢で知られていた企業が、情緒的なパーパスの声明を発表しているように見える。
このような慎重につくられた声明は、ステークホルダー資本主義のトレンドに乗っている。しかし、顧客と従業員とステークホルダーの結束を高めることに終始する企業は、やがて反発を買い、変革を通じた成長を実現するための最も重要な機会を失うことになる。
地球環境の保護・回復のため売上げの1%を用いるというパタゴニアの取り組みや、消費者が靴を1足購入するごとに途上国の子どもに靴を1足贈るというTOMSシューズの取り組みなど、パーパスを通じて利益を得るという伝統的なアプローチは、多くの企業にとって有効な出発点と言えるだろう。
BNPパリバ傘下のバンク・オブ・ザ・ウェストのケースは、その典型だ(記述の公平性を確保するために開示しておく。BNPパリバとバンク・オブ・ザ・ウェストはいずれも、筆者が所属するアクセンチュアの顧客企業である)。
バンク・オブ・ザ・ウェストの経営陣は2018年、フラッキング(水圧破砕法)によるシェールガス・石油の採掘、石炭採掘、北極での石油・天然ガス採掘、たばこ産業などへの融資打ち切りを宣言し、再生可能エネルギー関連への融資を優先する方針を表明した。また、特定の社会的大義と直接結びついた金融商品を提供するようにした。
その結果、同社のベン・スチュアート最高マーケティング責任者(CMO)によれば、その後の8カ月間で、新規顧客の増加率が過去最高の37%を記録し、それ以降も25%以上の増加ペースを維持しているという。
しかし、パーパス主導の成長を本格的に実現するためには、社会問題や環境問題で大義を掲げたり、サステナビリティを重視したり、力強いパーパスの声明を発表したりするだけにとどまらず、パーパスをもっと広くとらえる必要がある。
企業は、3つのレベルのパーパス(会社のパーパス、ブランドのパーパス、顧客のパーパス)について検討し、そのパーパスに沿った顧客体験を提供できるように、製品、人材、プロセス、ポリシー、テクノロジー、オペレーション、指標を最適化すべきだ。そうすることにより、成長率、収益性、競合との差別化、カテゴリーリーダーシップ、顧客と従業員の長期のロイヤルティにおいて、他社に大きな差をつけられる。
以下では、その取り組みにどのように着手すべきかを見ていこう。