
ポストコロナを見据えて、ハイブリッドワークへの移行準備が進められる中、働く場所と時間について「従業員がどこまで自由に決めてよいか」という新たな問題が生じている。みずからスケジュールを決めるべきだという意見を支持するマネジャーは少なくないが、筆者は従業員の自由裁量に任せることで、組織のダイバーシティが危機的状況に陥るリスクを指摘する。在宅勤務を希望するかどうかの割合が、年齢やジェンダー、あるいは子どもの有無で異なり、結果としてキャリアに深刻な影響を及ぼす可能性があるからだ。本稿では、ハイブリッドワークの導入にあたって、マネジャーが何を念頭に置くべきか論じる。
米国の州政府および連邦政府が新型コロナウイルス感染症対策の規制を緩和しつつあり、企業や従業員がオフィスに戻る予定を固め始めているいま、1つの点が明らかになってきている。今後の在宅勤務(WFH)は、ハイブリッドになるという点だ。
筆者がメキシコ自治工科大学(ITAM)助教授のホセ・マリア・バレロ、シカゴ大学ブーススクール・オブ・ビジネス教授のスティーブン J. デイビスと行った共同研究に加え、多岐にわたる業界のマネジャー数百人と行った対話からは、小規模企業からグーグルやシティグループ、HSBCといった巨大多国籍企業まで、企業の約70%が何らかの形でハイブリッドワークへの移行を計画していることが明らかになりつつある。
しかし、次の点については議論が分かれるだろう。どこで働くかについて、従業員にどの程度、選択の自由を認めるべきか。
実際、従業員がみずからスケジュールを決めるべきだという意見を、熱心に支持するマネジャーは少なくない。
筆者らは2020年5月以降、毎月3万人以上の米国人を対象に調査を行ってきた。調査データによれば、約32%の従業員がパンデミック後もオフィス勤務を再開したくないと答えている。そう回答した人の多くは、小さな子どもがいて、郊外に住み、通勤に苦痛を感じ、在宅のほうが心地よいと考えている。
その一方で21%の従業員が、あと1日たりとも在宅で仕事をしたくないと考えている。そう答えたのは独身の若い従業員や、子どもが巣立った後で都心のアパートやマンションに暮らす親世代であるケースが多い。
このように在宅勤務に関して相当の温度差があることを考えると、働く場所を従業員に選ばせるのは自然なことだと思える。あるマネジャーは、「私はチームメンバーを大人として扱う。きちんと仕事している限り、いつどこで勤務するかは自分で決めてかまわない」と語っていた。