直感を検証するため、筆者らはクリエイティブ産業(広告、デジタル、出版、ソフトウェア)に属する122社から、最新のイノベーションプロジェクトに関するデータを収集した。

 クリエイティブ産業を選んだのは、顧客の反応に対する不確実性が高く、新製品や製品改良の可能性が無限にあるからだ。同様の理由で、イノベーションの審査上の決定、つまり、どのイノベーションプロジェクトを進めるかという決定にも焦点を当てた。

 これらの意思決定は不確実性が高いことが特徴で、マネジャーは顧客の反応、市場の潜在性、実現可能性、リスクなどを的確に予測するための十分な過去のデータを持たないことが多い。仮にそのようなデータがあったとしても、そこから推測することは非常に難しく、ミスリードを招くこともある。

 研究では、企業のマネジャーに、直近のイノベーションプロジェクトで審査上の決定が必要だったものについて、どのようにその決定を下したかを理解するための質問をした。

 具体的には、アナリティクス(データを分析して最善と思われる選択肢を選ぶ)、直感(直感に従った選択肢を選ぶ)、そしてよく知られているヒューリスティック(より速く、無駄なく意思決定を行うための実践的な方法)のそれぞれに、どの程度依存したかを尋ねた。ヒューリスティックには「集計」(肯定的な値が最も多い選択肢を選ぶ)、「経験」(チーム内で最も経験豊富な人が望む選択肢を選ぶ)、「多数決」(多くの人が望む選択肢を選ぶ)などが含まれた。

 次に、マネジャーに自分の判断が正しかったと思うかどうか(認識された意思決定の的確さ)と、どれくらい速く意思決定を行ったか(認識された意思決定の速さ)を尋ねた。

 驚いたことに、ビッグデータへの関心が高いにもかかわらず、今回のサンプルのマネジャーは、直感や単純なヒューリスティックよりもアナリティクスに頼ってはいなかった。最も多く使用されたヒューリスティックは集計であり、アナリティクスと直感の両方を上回った。

 また、アナリティクスに頼ることは、必ずしもイノベーションプロジェクトを選択するための理想的な方法ではないこともわかった。データ分析に基づく意思決定は、十分なレベルの意思決定の的確さをもたらす一方、そのプロセスには時間がかかった。

 直感と単純なヒューリスティックに頼ったマネジャーは、同じくらい的確な意思決定を下したが、より迅速だった。つまり、ヒューリスティックと直感は、意思決定のスピードと的確さという点でよりよいトレードオフを与えたということだ。意思決定のプロセスにアナリティクスを取り入れても、スピードが大幅に低下する一方で、的確さに大きな改善は見られなかった。

 直感に基づくイノベーションの意思決定を検討しているマネジャーが注意すべきは、直感の有効性は過去の経験に依存する可能性があるということだ。

 先行研究では、アナリティクスと比較した場合の直感の有効性は専門知識に依存しており、特定分野の専門家のほうがよりよい直感的な意思決定を行う可能性が高いことが示されている。そのため、専門知識が限られているマネジャーは直感に過度に依存しないほうがよいかもしれない。今回の研究結果は、主にヒューリスティックな判断に頼ることも有効な選択肢であることを示唆している。

 次の機会でマネジメント上の不確かな決断に直面した時は、データだけが選択の根拠ではない可能性があることを心に留めておいてほしい。いくつかの簡単なヒューリスティックと併せて直感に従うことで、必要な専門知識を持っている人は特に、より早く、より的確な判断ができるだろう。


"When an Educated Guess Beats Data Analysis," HBR.org, June 04, 2021.