(1)疾患に応じた「代表性」を理解して、集めたい参加者の集団を意図的に設定する

 それぞれの疾病が影響を与える集団には、年齢、性別、人種、民族などさまざまな違いがある。たとえば、鎌状赤血球症はアフリカ系やヒスパニック系に多く見られ、乳癌や前立腺癌が多い集団とは大きく異なる。

 扱う疾病の患者の代表性がわかれば、治験の参加者の集団を意図的に設定することができる。たとえば、多発性骨髄腫研究財団(MMRF)は患者の約20%が黒人であることを踏まえて、財団のすべての研究に代表的な母集団を含めるよう働きかけている。

(2)患者の登録データをもとに治験を行う

 治験は範囲が限定的になり、定型的な作業になりがちだ。患者をゼロから探し、参加を促して、治験を実施して、終了する。

 疾病登録(独立した疾病財団が管理している場合が多い)は、情報の性質が根本的に異なる。基本的に長期の変化をとらえ、詳細な個人情報やデモグラフィックデータ(人種や民族など)、臨床データ、ゲノム情報、生物学的サンプルなど、現実社会のデータが広く深く集約されているのだ。これらを適切に用いれば、時間をかけて患者と交流を重ね、データと洞察を共有して患者にも価値を提供することによって、患者の参加を促し、関係を構築して信頼を得ることができる。

 信頼できる疾病登録情報を、治験の参加者を選ぶ基盤にすると、参加基準を詳細に定義して、合致する患者セグメントおよびサブセグメントを特定できる。それによって治験の参加者集めに伴うさまざまな問題を回避し、代表性を確保した患者集団にアクセスできる。

(3)従来のアカデミック・メディカル・センター(AMC)の枠を超えて、患者にアクセスする

 治験に参加する患者の供給源が、従来は大学病院などのアカデミック・メディカル・センター(AMC)にほぼ限定されていたため、多様性のある集団の構成には限界があった。患者を募集して登録する場所や方法を広げれば、より多様性のある患者を集めることができる。

 筆者らは治験を計画している組織に、「患者がいるところに行く」ように助言している。医療機関の内外で、患者を募集できそうなあらゆるチャネルを幅広く、独創的に検討して、疾病と患者の集団に最も適した戦略を立てるのだ。

 そこでAMCだけでなく以下のような場所を検討したい。

 ●医療機関

 医療機関は多くの患者にアクセスすることができ、一般に、患者の病状、病歴、性別、民族などについて優れたデータがある。

 たとえば、ルイジアナ州最大の医療機関オシュナー・ヘルスは約100万人にケアを提供し、多様性の高い集団を擁している。また、臨床研究部門を持ち、恵まれない地区に地域医療センターを建設している。バトンルージュとニューオーリンズを結ぶミシシッピ川沿いは石油化学工場が多く、癌の発生率が高いことから「癌の小道」と呼ばれているが、この地域で強力な存在感を示しているオシュナーは、その多様な患者を治験に活かしたい場合、有力なパートナーになるだろう。

 もう一つの例は、前立腺癌財団(PCF)と、米国最大の総合医療システムである退役軍人局(VA)とのパートナーシップだ。VAは前立腺癌の患者が多く、そのうち40%がアフリカ系米国人だ。そして、全米でも有数の電子健康記録(EHR)システムを導入している。このシステムはVAの1700の病院と診療所で使われ、2300万人以上の前立腺癌患者について一貫性ある長期的なデータを収集・保管している。

 ●コミュニティネットワーク

 草の根のネットワークは、独創的なアプローチで患者の勧誘と登録ができる。たとえば、十分な公共サービスを受けていない有色人種のコミュニティで重要な信頼関係を築いている何千もの教会と協力すれば、患者の登録と治験のためにさまざまな人を集めやすいだろう。

 ●消費者直接取引(D2C)

 現代的な消費者向けマーケティングの手法やソーシャルメディアを利用して、患者に直接アプローチして関心を持ってもらう。フェイスブックの幹部が設立した濾胞性リンパ腫財団は、まさにD2Cマーケティングとソーシャルメディアを活用して、濾胞性リンパ腫のグローバルなオンラインコミュニティを構築した。これはAMCだけに頼る手法へのアンチテーゼでもある。

 AMCに限定したり、1つのチャネルだけを選んだりするのではなく、対象の疾患について代表性の高い大規模な患者登録を構築するために、チャネルの組み合わせを戦略的に考えることが重要だ。潜在的なパートナーの能力、彼らがカバーできる人口の多様性、コミュニティからの信頼、実行能力を理解すること。

格差への対応が重要な理由

 プレシジョン・メディシン(精密医療)の時代に、治療を加速させるカギを握るのはデータだ。ただし、すべての患者を代表するデータがなければ、どのようなセグメントやサブセグメントの患者に最も効果的な治療なのかを判断できないだろう。代表性の高い患者データとそこから得られる知見は、治療から取り残される患者をなくすために不可欠だ。


"Addressing Demographic Disparities in Clinical Trials," HBR.org, June 11, 2021.