企業価値につながる成長と稼ぐ力を戦略に落とし込むには、どのようにすればよいのか。戦略論の全体構造は、ミッション、ビジョン、バリューという戦略の上位概念、企業全体として進んでいく道筋を示す全社戦略、個々の事業の事業戦略、事業横断での機能戦略、そしてこれらの戦略の実行を支えるために組織として構築する組織スキル、組織体制と組織運営、人材マネジメントなどから構成される。成長と稼ぐ力という視点から、それぞれの戦略を具体的でアクショナブルな内容で策定しなければならない。

戦略の軸

 お金の流れによって経営の全体像を理解して、企業価値を創造していくとき、キャッシュフローを大きく左右するのがいわゆる「戦略」である。すなわち、戦略の内容および実行の徹底度が、キャッシュフローの大きさや、キャッシュフローが生み出されるタイミングに影響する。

 前回見てきたとおり、企業価値は「成長」と「稼ぐ力」を源泉として創造される。そのため、戦略の内容は次の点を踏まえて策定され、そして徹底して実行されるべきである。

・成長と稼ぐ力という要諦をはっきりと意識したうえで、これらを軸にしている。
・徹底して実行でき、そしてキャッシュフローを生み出していけるように、具体的でアクショナブルなものになっている。
・どのような因果関係を経てキャッシュフローにつながっていくのかが明らかになっている。

 一方で、日本企業では伝統的に事業部門が強く、その戦略は、どうしても事業の現場に近い人たちにとって、目に見える課題や取り組みやすい課題への打ち手に終始しやすい。そして、「新興国進出戦略」「製造コスト合理化戦略」「マーケティング高度化戦略」「営業効率化戦略」……などと、戦略という言葉をまるで枕詞のように使って、抽象的に語られることが多い。

 これでは、成長と稼ぐ力という戦略の「軸」が曖昧模糊としたものになってしまう。いったい何を目指して、何に取り組み、どれくらいの効果を実現しようとして進んでいくのかがはっきりしない。そのため、現場のそれぞれの社員が、各自で戦略を解釈して、各自ができる限りのことを一生懸命に実行することになる。これでは、戦略から最大限にキャッシュフローを生み出し、企業価値を創造していくことにはつながりにくい。

 繰り返しになるが、戦略とは、成長と稼ぐ力を軸とするものであり、徹底して実行できるように具体的なものであって、どのような因果関係を経て、どれくらいの大きさのキャッシュフローに、どのようなタイミングでつながっていくのか、が明らかになっていなければならない。

 成長と稼ぐ力という戦略の要諦を押さえて、具体的でアクショナブルな戦略を考えることができ、事業運営においてその戦略をとことん徹底して実行できれば、十分なキャッシュフローを生み出し、企業価値を持続的に創造することができる。

 これを実現できる経営者は、たとえ大企業の経営者であろうとも、事業を生み、その事業を育て発展させ続けていく、まさに事業家といえる。そのような経営者は強烈な情熱をも持ち、事業を推進して、企業価値を創造していくのである。