
新型コロナウイルス感染症が終息に向かってもリモートワークが完全に終わることはなく、オフィス勤務と併存する「ハイブリッドワーク」に移行することになるだろう。ただし、ハイブリッドワークは職場の不平等を加速させるリスクを伴う。本稿では、職場の公平性を確保し、インクルージョンを実現するための5つのポイントを紹介する。
新型コロナウイルス感染症の流行に伴う行動制限が緩和されても、働き方に関する一つの大きな変化は、その後も明らかに続く。「ハイブリッドワーク」への移行だ。しかし、懸念もある。ハイブリッドワークは新たな不平等をつくり出したり、すでに存在する不平等を増幅させたりするリスクがあるのだ。
企業がハイブリッドワークの環境で従業員の間の公平性を確保し、パフォーマンスを最大限に高め、文化的結束を維持するためには、以下で論じる5つの実務的な側面でインクルージョン(包摂)について検討したうえで、ハイブリッドワークに関するポリシーを策定し、新しい働き方を実践するよう留意する必要がある。
●採用と新人研修
コロナ禍の下で採用活動と新人研修がバーチャルに移行するのに伴い、新入社員が未来の上司や同僚と顔を合わせないままで就職を決めるケースも増えている。人事部門の幹部の中には、今後もバーチャル面接を継続することになるだろうと述べている人が多い。
こうしたトレンドにはメリットもある。まず、就職のために引っ越しすることが難しい低所得層の人たちも求人に応募しやすくなる。また、これまでの新人研修のあり方を見直して、新入社員の多様な経験や経歴、期待をいっそう重んじるように転換する好機にもなる。
新人研修の一貫性を高めるためには、コロナ禍の経験に基づいて、リモートワークをする人にとって理想的な情報の受け取り方はどのようなものかに関する教訓を活かす必要がある。たとえば、オンライン授業に移行した大学は、長い講義を15分程度の小分けにしたほうが効果的であることに気づいた。
企業は、IT関連の設定やさまざまな社内手続きの方法など、新人研修のあらゆる要素を取り上げた短い動画のリストを用意すべきだ。そのうえで、新入社員が5人未満の小人数のグループに分かれて、動画の内容について質問できる機会を設けよう。この2つの取り組みを行うことで、一貫性のある新人研修を実施すると同時に、一人ひとりのニーズにも応えられる。
職場で成功をするために欠かせない要素の一つは、適切な環境で働くことと、適切な訓練を受けることだ。
リモートワークの時代には、テクノロジーに精通し、自宅でスムーズに仕事ができることが不可欠なスキルになりつつある。しかし、テクノロジーに疎い人にとって、自宅を仮の仕事場にすることは容易でない。リモートワークに必要な機器の類いを資金面の理由から購入できず、勤務先の会社が用意してくれないケースもある。ここに、不平等が生まれているのだ。
コロナ以前のオフィス勤務の時代には、会社のIT担当者が従業員のPCやスマートフォン、モニターを設定し、ネットワークやソフトウェアに何らかの問題が生じれば対処して、従業員の質問にいつでも答えていた。バーチャルな新人研修の際、一人ひとりのテクノロジーの精通度合いを回答させれば、会社側がリモート環境でのITサポートと設定の準備をしやすいだろう。
また、入社直後の研修が終わり、実務が始まると、従業員の研修は一貫性を欠いたものになりかねず、誰が上司かによって大きく左右される可能性がある。
オフィス勤務の場合、自然な形で情報を入手し、どのような働き方をすればよいかを学ぶことができる。一方、リモートで働く人たちは、頻繁にオフィスに出社する人に比べて情報を獲得するのが難しい。その結果、オフィスで働く人たちよりも無能だとか、生産性が低いといったレッテルを張られかねない。
この問題を解決するために「バディシステム」を導入するのは効果的だ。新入社員にベテラン従業員とペアを組ませるのだ。新入社員は、日々知りたくなることをバディ(相棒)に質問できる。こうした仕組みを設ければ、リモートワークの従業員もオフィス勤務の人と同様に、非公式の学習の機会を得ることができる。