●チームの結束
問題はほかにもある。経済的な不確実性が高まっている時、人は職場で内向きの集団をつくりがちだ。たいていは、何らかの共通点がある人たちが寄り集まる。
そのようなグループを通じて、人々が帰属意識を抱きやすくなることは確かだが、ビジネス上のメリットがあるかは疑わしい。弊害としては、誰かが重要な会話から排除されたり、情報共有が不十分だったりする場合がある。このようなグループは、誰が重要な業務や得意先を任されるべきかを決める場合もある。
リモートワークを続ける人がいる中で、オフィス勤務を再開した人たちは、職場で「グループ内のグループ」を組織するかもしれない。そうなるとリモートで仕事をする人たちは、問題解決に関して蚊帳の外に置かれたり、情報を十分に与えられなかったりしかねない。オフィスに出社して働く人に比べて、戦力になっていないと思われる可能性もある。
このようなグループを解体するためには、いわゆる「弱いつながり」に着目することで、組織内で豊富な情報が円滑に流れるようにする必要がある。人的ネットワークにおける「つながり」とは、人と人の関係性のことだ。そのつながりの強度は、その人たちが共有する時間、関わりの密度、物理的な距離の近さによって決まる。
チーム内の同僚のような「強いつながり」は、濃密なネットワークをつくり出し、チーム内の絆を育むうえで非常に重要な意味を持つ。しかし、知り合いや連絡先がわかる程度の関係、すなわち弱いつながりの価値も見落としてはならない。組織全体に情報を拡散させるうえでは、そうした人間関係が極めて大きな役割を持っているからだ。弱いつながりを介して初めて、異なる人的ネットワークが接点を持ち、いわば情報のサイロの間に懸け橋が生まれるのである。
もう1つ重要なことは、人々がいわゆる基本的帰属錯誤に陥らないようにすることだ。この錯誤に陥ると、自分自身や同じ場所で働く人たちが失敗した時の原因を状況のせいにする一方で、自宅で働いている人たちの失敗をその人物の性質のせいだと決めつけがちになる。こうしたことは避けるべきだ。
遠く離れた場所にいる人たちの状況を理解することは難しい。そこで人々に自分の行動の理由を説明するよう促すことで、同僚たちがその人の状況を理解し、チームの結束を強化することが望ましい。
●昇進
上司と部下の両方が男性の場合、マネジャーと物理的に近い場所にいる部下は、昇進する確率が高いことがわかっている。これは、目立つことと生産性の高さの間に関連があると見なされていることが原因なのかもしれない(そのような関連があることは立証されていない)。
誰を昇給・昇進させ、誰にチャンスを与えるかは、このような思い込みによって決まっている。コロナ後の時代には、リモート勤務の人と、オフィスで上司と対面する機会がある人の間に、根拠なき格差が生まれるかもしれない。
ある人の生産性とパフォーマンスは、どのような環境で仕事をするかによって大きく変わってくる。たとえば、近所のコーヒーショップで働くほうが創造性を発揮しやすい場合もある。あるいは職場に植物を置くと集中力が高まり、生産性が向上するかもしれない。また、換気がよく、空気の質がよい場所で働くと、パフォーマンスが高まるという研究もある。
ハイブリッドワークの世界では、自宅の環境がその人の仕事上の成果に大きな影響を及ぼす。裕福な人は専用のホームオフィスを用意できるだろうが、ルームシェアで共同生活を送るアパートや、キッチンカウンターのように理想的とはほど遠い場所で仕事をしなくてはならない人もいる。
リモートワークをしている家族の人数が多く、1人当たりの面積が少ない人ほど、生産性も下がると予想される。問題はそれだけではない。家庭内でWiFiの電波争奪戦が起きる場合がある。マイクロソフトの社内調査によると、59%の人は、その問題を避けるために、スマートフォンをホットスポットとして使わざるをえないという。
リモートワークをしているそばに子どもがいるかどうかもパフォーマンスに影響する。ある調査によれば、育児の役割を担っている女性の85%は、育児の責任により、仕事への取り組みがある程度もしくはかなりの程度難しくなっていると答えている。育児の役割を担う男性の70%も、同様のことを述べている。
ハイブリッドワークが本格的に導入されれば、どのような人が評価されて報われるかも変わる。それにより不利になる人も出てくるだろう。
対面型のオフィスで評価されていた資質が、バーチャル環境ではそれほど有益でなくなる可能性もある。たとえば、他人とコミュニケーションを取ることに前向きで社交的であることはこれまで大きな強みになっていたが、リモート環境ではその資質を活かす機会があまりないかもしれない。
この点に関しては、社内の昇進状況に目を光らせることが重要だ。そして、その情報を従業員につまびらかにする必要がある。これには2つの利点がある。まず、あるグループがほかのグループより優遇されていれば、それが白日の下にさらされる。加えて、誰を昇進させるかが監視されているとわかれば、マネジャーは慎重に人事を行うと期待できる。
自社のハイブリッドワークの計画と方針を策定する際は、それにより生じたり、増幅したりする不平等に目を配る必要がある。平等な組織を築きたいのであれば、本稿で論じたインクルージョンの実務的側面を念頭に置いて、制度を設計することを怠ってはならない。
"5 Practices to Make Your Hybrid Workplace Inclusive," HBR.org, August 17, 2021.