
新型コロナウイルス・ワクチンの開発に成功し、各国で希望者への接種が着実に進んでいる。しかし、パンデミックを収束させるうえでは、ワクチン接種をためらう人々の行動を変えることが欠かせない。米国のバイデン大統領が民間企業にワクチン接種の義務化をうながしたように、ビジネスリーダーが義務化を推進することで、新たな社会規範を確立・普及させ、感染症の収束に貢献することができると筆者らは主張する。
米国食品医薬品局(FDA)がファイザー製の新型コロナウイルス・ワクチンを正式承認し、ジョー・バイデン大統領が企業に対してワクチン接種を義務付けるよううながしたことで、多くのリーダーがこれから対策に臨むことになる。
決断を下すうえで、リーダーは社会的に重大な推定に関して考慮する必要がある。組織によるワクチン接種の義務化は標準的なものになるのか、あるいはその合法性が否定されるのか、である。
ワクチン接種の躊躇は社会的にますます大きな問題となっている。世界保健機関(WHO)は2019年、この問題を世界の健康に対する10の脅威の一つと宣言し、経済的に明らかな影響をもたらすとした。この脅威が高まる中、新型コロナウイルス・ワクチンの義務化に関するビジネスリーダーの決断は、パンデミックを緩和あるいは悪化させる社会規範の促進に大きな役割を果たす。
リーダーが持つこの影響力は、ワクチン義務化に関する議論において見過ごされている。賛成派も反対派も、義務化によってワクチン接種が強制されるという法的視点に囚われているようだ。だが、それは特に社会が激しく変化している時にあって、義務化がもたらす高い象徴的価値を無視している。
私たちはまったく新しい病に罹り、新たなアプローチで製造された、これまでにないワクチンを備えている。世界中で新型コロナウイルス感染症が急拡大し、変異体も出現する中、先例のない不確実性にも直面している。
この新しさと不確実性が組み合わさることで、私たちがやっていること、あるいはやるべきことに対する社会的理解は揺れ動いている。そのため公衆衛生を支える社会規範(ワクチン接種など)を早期に確立すれば、それが当然の行動となり、パンデミックをいち早く収束させることができる。
こうした社会的プロセスにおいて、企業のワクチン義務化が規範の設定にどのような強い影響力を及ぼすのか、以下に解説しよう。