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組織で高く評価されるのは、自信に満ちあふれる楽観主義者であることが多い。しかし、常に前向きな人物の存在が組織やチームに好影響をもたらすとは限らない。むしろ、従業員がポジティブ感情とネガティブ感情が共存する「感情的アンビバレンス」を抱いた時、それを安心して共有できる組織ほど、変化に柔軟に適応できる可能性がある。本稿では、リーダーが感情的アンビバレンスを共有しやすい職場をつくるための6つのヒントを紹介する。


 型コロナウイルス感染症のパンデミックで多くの人が活力を失っている中、「感情的アンビバレンス」と呼ばれる、より複雑な状態を経験している人もいる。これは、ある物事にポジティブ感情とネガティブ感情が同時に起こる状態で、自分が「揺れている」と感じるだろう。

 たとえば、多くの人がオフィスに戻ることに葛藤を覚えている。あるいはズーム会議で同僚に「調子はどう」と聞かれて、自分の本当の気持ちを考えた時、そのような感情を抱くかもしれない。パンデミックの長期化と、その特徴である不確実性に直面し、多くの人が人生で最も複雑な感情を経験している。

 ただし、心の中で感じていることと、周囲と共有することは、必ずしも一致しない。雰囲気を悪くするのではないか、うまくやれていないと思われて、感情的に脆いと見なされるのではないかと不安になり、心の葛藤を同僚と共有することをためらう場合も少なくない。

 残念ながら、こうした不安にまったく根拠がないとは言えない。厳しい競争下で、人は決断力と自己主張に価値を置きがちだ。感情的アンビバレンスを共有することは、これとは反対の状況を示唆し、他人を利することになりかねない。

 多くのリーダーは、仕事で感情を表現する際は、それがポジティブであるほど安全で好ましいと考える。幸福感は自信と能力を感じさせ、私たちは前向きで幸せそうな人のそばにいたいと思うものだ。

 しかし、最近の研究が示唆するように、とにかくポジティブなリーダーでいることが最善でもなさそうだ。たとえば、協調関係が構築された状態で感情的アンビバレンスを共有することは、誰にとってもよりよい問題解決につながる時もある。

 筆者らが話を聞いたある企業(フォーチュン500の一つ)のマネジャーは、上司である専務が、オフィスで働いていたことを懐かしむ感情的アンビバレンスを率直に話してくれたおかげで、安心できたという。複雑な感情を明らかにすることにより、彼らは創造性を発揮し、自分自身、チーム、さらには会社のためになる柔軟な計画を立てることができた。

 このマネジャーが抱いた感情は、特別なものではない。感情的アンビバレンスを経験することで、より創造的になり助言を受け入れやすくなって適応力が高まることが研究からわかっている。一方で、ネガティブ感情を経験しないように社会的圧力をかけ、幸福感を肯定する文化をうながすことは、ネガティブ感情を経験している人の反芻や孤独を助長し、ウェルビーイングを低下させる恐れがある。

 筆者らはこの2年間、ワーキングマザーなどターゲットグループのソーシャルサポートに焦点を当てた、インスタグラムのグループの出現および発展を追跡してきた。現在も継続しているこのプロジェクトを通じて、グループによって感情的なトーンが異なることと(たとえば、ポジティブなものと感情的にアンビバレントなもの)、感情的にアンビバレントなグループは、困難に直面した時にウェルビーイングを実現する強力な源泉になりうることがわかった。

 具体的には、テキスト分析ソフトウェアを用いて、投稿とそれに対する反応を分析したところ、感情的アンビバレンスを表現している投稿は、ポジティブな関与、洞察力、目の前に意識を集中させることと関連性が見られる。

 グループのリーダーやメンバーが複雑な感情を外に向けて表現することが、信頼できる心のこもった行動の手本となり、他のメンバーが人生の問題や苦難を乗り越えられるようにうながすかどうかを、筆者らは引き続き検証している。

 組織が現代社会のニーズをより考慮した働き方を推進するに当たり、従業員の複雑化する感情をサポートするような方法で、職場の期待や構造、報酬システムを適応させ、進化させることが重要になる。

 筆者らの研究から得られる洞察に基づき、2021年後半からの新しい「ニューノーマル」の確立に向けて、感情的アンビバレンスを抱くことをうながし、その長所を活用するうえで、リーダーシップの6つの教訓を提案する。