●緊迫したイベントの前に条件を設定する

 新しいメンバーは、チームに加わった瞬間に基本的なルールを学ぶ。共通の目標は、複雑な問題の解決策を協力して見つけることだ。そのため全員の意見が歓迎される。全員が自信を持ち、しかし敬意を忘れずに、意見を言うことが奨励される。

 学歴や年齢やテーマに関する専門性や政治的属性は関係ない。仲間の意見をうまくまとめてもいい。重要なのは、さまざまなアイデアを試すことができるように、心理的に安全で、過度に批判的でない空間をつくることだ。

 より具体的には、筆者らのチームが重視するのは、信頼を醸成するための内部規範だ。これはある種の社会契約だ。メンバーは互いのプライバシーを守ることに同意し、ここで明らかにされた個人的見解や個人情報が外部に漏れることはない。

 また、互いの気分が害される場合があることを明示的に認めながらも、そのような場合には、迅速かつ効率的に問題点を話し合うことで合意している。たとえば、署名欄に「彼」や「彼女」などの人称代名詞が記載されたメールを初めて見たメンバーは、ネガティブな反応を示される心配をいっさいすることなく、その意味を他のメンバーに聞くことができた。

 筆者らの上司は、批判的に聞こえない質問の仕方を教えてくれた。「Xの状況について話していた時、君がYと言ったのを覚えているかい。私はそれをZと解釈したのだが、それは正しいかな」といった具合だ。

「物事を正しくやる」(効率)だけでなく、「正しいことをやる」(有効性)という合意もある。小さな違いだと思うかもしれないが、これによりメンバーは、自分の経験や才能、スキルを用いて、チームをよりよい方向に導いてよいという許可を与えられる。

 ●深いつながりを見つける

 数年にわたり一緒に仕事をする中で、筆者らは互いをよく知るための努力を意識的に行ってきた。その会話は時事問題がきっかけになることもあれば、幼少期の経験や以前の職場での経験、あるいは課外活動の経験がきっかけになることもあった。

 組織内外の情報源も共有する。また、質問をして、自分とは異なる見解をより理解しようと努める。

 たとえば昨年、コロナ禍で経済が打撃を受けた時、人種や性別による所得格差が話題になった。それが株式市場や投資物件、ジェントリフィケーション、相続財産のつくり方などに関する会話につながった。このような機会に情報が共有され、学習される。

 ●困難な問題について徹底的に話し合う

 筆者らのオフィスでは、テレビをつけてニュースを見ることがある。2020年と2021年は、不穏なニュースが多かった。そうしたニュースを見た後、頭の中が疑問とコメントと感情でいっぱいのまま、黙って自分のデスクに戻るのではなく、世の中で何が起きているのかについて意見交換する時間が設けられた。

 上司はよく、自分の部屋でディスカッションをするようにチーム全員を招き入れてくれた。そして、筆者らが多様な社会集団で経験してきた格差や困難について意見を交わすのに耳を傾けていた。

 議論が白熱したトピックの一つは、米国における警察活動だった。ファーネルが、父親が警察官だった経験から述べた意見は、全員の視野を広げる助けとなった。また、ジョージ・フロイドやブレオナ・テイラーが警察の過剰暴力で死亡した事件の複雑な背景を徹底的に語り合ったことで、筆者ら自身が持つバイアスを認識できた。

 ●文化を広める

 こうした環境をつくることは、チームだけでなく、組織全体に深遠なインパクトを与えた。筆者らのチームをきっかけに、多様性と、多様性が仕事全体にもたらす恩恵に敬意が払われるようになった。

 自分たちの上級幹部のために、ポリシーを見直し、スピーチを書き、会議を設定し、ソーシャルメディア戦略を実行する時、インクルーシブ(包摂的)なメッセージを広め、陸軍の全人員(特に意図せず取り残されてきた人々)をサポートするよう心がけている。

 ポジティブな行動と信頼を組織全体で常態化させたい、と筆者らは思っている。このチームでの任期が終了したら、それぞれ作戦部隊に散らばり、ここでの経験と洞察、そして拡大した視野をより広範に共有していくつもりだ。

 筆者らは、多様なチームに属するだけでなく、正しい規範を設定し、それぞれ実際につながり、難しいテーマで議論を行い、よりインクルーシブな組織をつくることで、多様性がもたらす価値を目の当たりにしてきた。それぞれの違いを強調するのではなく、困難を克服するために純粋に協力できれば、そのチームは組織全体に模範を示すことができる。


"Keeping a Diverse Team United in Polarized Times," HBR.org, September 14, 2021.