
新型コロナウイルスの感染拡大で最も大きな打撃を受けた業界の一つに航空業界がある。パンデミックから1年半が経過し、業績は徐々に回復しつつあるが、このままコロナ禍以前の活況を取り戻すことはできるのか。本稿では、航空専門メディアの編集長やコンサルタントたちが、航空業界が直面する課題と好機について語る。
新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生から18カ月が経ち、米国の航空業はようやく回復の途についた。しかし、上向きつつあるこの業界は、パンデミック初期に、実質的に昏睡状態を余儀なくされた頃とは変わっている。
『ハーバード・ビジネス・レビュー』は航空業の状況について最初のインタビューを実施してから1年後、業界が直面する課題(および好機)について、同じメンバーに話を聞いた。
ジョン・オストロワーは航空専門メディア『エア・カレント』の編集長、コートニー・ミラーは同サイトの分析担当マネージングディレクター。ダン・マコーンとアラン・ルイスは、L.E.K.コンサルティングのボストンオフィスでマネージングディレクターを務め、大手航空会社に助言を提供してきた経験を持つ。
編集部(以下太字):2020年5月に皆さんは、新型コロナウイルスのパンデミックは航空業が直面した史上最大の危機である、という点で意見が一致しました。その後、事態は予想通りに展開しましたか。
マコーン:ビジネス旅行はいまだにかなり低調で、これは予想通りです。しかしレジャー旅行は、我々の楽観的な見通しをさらに上回る速さで回復しています。
パンデミックのさなかでも、非常に多くの人が飛行機に乗るのをためらわないことに、私自身はショックを受けました。
オストロワー:飛行機での移動は新型コロナウイルスの感染拡大に影響するのかどうか、当然ながら誰もが注目していました。我々は、別の問いについて分析しました。新型コロナの感染拡大は、飛行機移動に影響を及ぼすのか。答えは「それほどでもない」です。需要は新型コロナウイルスの感染数には左右されません。飛行機に乗るのが許されるのであれば、人々は乗ろうとします。
ミラー:ほかの国々でも同様のことを示す根拠があります。カナダでの乗客数は、パンデミック前と比べて約10%に留まっていました。その後、政府が旅行規制を緩めると、乗客数はわずか数日間でほぼ40%にまで跳ね上がっています。もちろん、ほとんどがレジャー旅客です。
ビジネストラベルは回復するのでしょうか。
ルイス:ある程度は回復するでしょう。ですが、パンデミックが長引けば長引くほど、出張の代わりとなるビデオ会議などの慣行がますます定着し、CFOは出張費の節約分が収益に効いてくることを意識するようになります。航空会社にとっては悪循環です。
それは航空業界にとって脅威となりますか。
マコーン:収益性の面では、確実にそうでしょう。一部では価格の回復を指摘する声もあり、マスコミを賑わせている異常なインフレ率の一因として航空会社が挙げられています。しかし、乗客数が戻り、レジャー旅行のチケット価格が昨年より上がっていても、全体的な収益は2019年に比べて激減したままです。理由はビジネストラベルがないからです。通常時の航空会社の経営状況に照らして見ると、料金構成はまだ健全ではありません。
ミラー:それは重要な要因ですね。たしかに最低料金は、いまはかなり上がっています。チケット代が大幅に上がったのだから、航空会社は好調なはずだ、と一般的な旅行者は考えるでしょう。
実は、いまフライト価格が高い理由は、これまで非常に高額のチケットを買うことでほかのチケットの値下げを可能にしていた人たちが、もうその穴埋めをしてくれていないからです。
航空会社はどのように調整するのでしょうか。
オストロワー:商品構成を変える必要があります。いわゆるプレミアムエコノミークラスがうまくいくでしょう。2008年の金融危機の後、企業が出張費の引き締めに走った時と同じです。
出張費を減らして復活に向かう企業は、これまでビジネストラベルで一般的だった長距離・フルフラットシート付きの商品にはもうお金を使いたくないはずです。すでにプレミアムエコノミー部門の回復のペースは、ベーシックエコノミーの最低料金を除き、すべての部門を上回っています。
ルイス:興味深いことに、これはパンデミック以前からの傾向が加速したものです。航空会社はビジネスクラスの客室の座席密度を高めて縮小し、プレミアムエコノミーとエコノミーの区域を広げる方向にシフトしています。