HBR Staff

急速に変化する環境に適応するために、従業員はみずから学び続けることが必要だと、経営者は口を揃える。ただし、彼らが誤解している点がある。生涯学習の最大のモチベーションは、仕事を失うことへの恐怖ではない。恐怖を煽るのではなく、人が本来持っている「探検家の情熱」を呼び覚ますことが学習の動機になると、筆者は指摘する。


 私たちを取り巻くテクノロジーと戦略の急速な変化に対応するには、すべての従業員が生涯学習に励むことが必要だと、経営者は異口同音に言う。

 だが、従業員の学習を推進すべきエグゼクティブやタレントマネジメントの担当者は往々にして、何が人を真の学習へと駆り立てるのか、すなわち単に既存の知識の伝達ではなく、新たな知識の創造へと駆り立てるものは何かを考えていない。その結果、多くの企業は、イノベーションを起こし、顧客の変化するニーズに対応するために学習しようという、従業員の意欲を高められずにいる。

 今日では、従業員を単にスキルアップのプログラムに参加させるだけでは事足りない。こうした研修プログラムは主に既存の知識、要するにすでにあるスキルの伝達に重点を置いている。しかし、目まぐるしく変化する世界では、既存の知識はまたたく間に古くなり、通用しなくなる。

 私たちは「学習」の定義を拡張して、新たな知識の創造という定義を加える必要がある。私たちに必要なのは、新しいソーシャルメディアや分析ツールの活用を試みるマーケティング担当者であり、「仕事を奪う」とされるロボットの新たな使い方を発見する工場労働者であり、人工知能(AI)による新しいチケットの販売方法を検討するIT技術者なのだ。

 このような新しい知識を構築するには、従来のスキルアップ・プログラムとは比べものにならないほどの膨大な努力を重ねる必要がある。ただし、これは現場がリスクを負うことを意味する。したがって、学習者には従来よりも高いモチベーションが必要となる。

 ところが経営陣は、従業員が生涯学習に取り組む動機に対して、ほとんど関心を示さない。それが必要な理由を問い詰められると、生涯学習をしなければ、やがて現在のスキルが通用しなくなり、仕事を失うからだと答えることが多い。つまり、経営陣が頼みとするモチベーションは、仕事を失う恐怖なのである。

 デロイト・センター・フォー・ジ・エッジの同僚と筆者は、学習の最も強力なモチベーションは恐怖ではないと予想した。マーケティング担当者がどうすれば新しいツールを試したくなるのか、工場労働者がどうすればロボットを触りたくなるのか、IT技術者がどうすればAIを活用したくなるのかを、筆者らは明らかにしたいと考えたのだ。

 そこで、仕事のモチベーションに関する長年の研究を土台にして、米国の15の業界の第一線で働く、さまざまな職務レベルのフルタイム従業員1300人を対象に調査を行い、彼らのパフォーマンスが格段に向上する時、いかなるメカニズムが働くかを解明しようとした。

 調査の結果、学習を通じて飛躍的な成長を遂げた従業員は、恐怖ではなく、「探検家の情熱」を示す傾向があることがわかった。この情熱は、学習を推進するうえで極めて強力なモチベーションである(詳細は近著The Journey Beyond Fearを参照)。

 調査対象の従業員に見られたように、探検家の情熱には主に3つの要素がある。

・探検家は、関心の持てる特定の領域でインパクトを生み出すために長期的にコミットする。これは工場労働、金融サービス、ガーデニングからビッグウェーブサーフィンまで、何にでも当てはまる。

・探検家は予想外の困難に遭遇すると奮い立つ。そうした障壁を、より深く学び、より大きなインパクトを与えられるチャンスだととらえるのだ。困難が少ないとむしろ退屈し、いま以上に困難な環境を探し求める。

・探検家は新たな困難に直面すると、力を貸してくれる人を即座に探し出し、彼らとつながろうとする。最適な答えにより早く到達し、より大きなインパクトを生むためだ。

 調査を通じて、探検家の情熱を持つ人は、恐怖を動機づけとする人よりも、学習のスピードがずっと速いことがわかった。

 しかし、組織のリーダーが従業員に情熱を植えつけようとすると、大きな壁に直面する。調査では、このタイプの情熱を仕事で発揮する従業員は、全米の労働者の中で最大でも14%に留まることが明らかになった。

 なぜ、それほど少ないのか。従業員を変容させて、情熱を植えつけることはできるのだろうか。あるいは、そもそもこのような情熱を持てない人もいるのだろうか。