
新型コロナウイルスのパンデミックによって、人材獲得競争がますます激化している。従業員を引き留めるために一時的なボーナスを支払う企業も増えているが、こうした施策が従業員エンゲージメントを長期的に高める可能性は低い。それだけでなく、実績が乏しいために転職できない人材を会社に留めてしまう危険性すらある。仕事に対する熱意と実績があり、会社の業績に貢献する人材に働き続けてもらうために、企業は何をすべきか。本稿では、そのために重要な3つのポイントを紹介する。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックをきっかけに、最近では人材の獲得競争が起きている。看護師を必死になって探している病院は4万ドルのサインオンボーナス(入社一時金)を提供し、ウォール街の企業は新人アナリストの基本給を6桁に引き上げた。ファストフード店でさえ、新しい人材を惹きつけるために500~1500ドルのリテンション(定着)ボーナスを約束している。
これらのアプローチは欠員補充なら効果を発揮するかもしれないが、長期的な従業員エンゲージメントや高い業績をもたらす可能性は低い。さらに悪いことに、消極的な人材、つまり転職したかったにもかかわらず会社に留まり、実績も上げていない従業員を社内に引き留めてしまうという「機能不全のリテンション」を引き起こすだろう。
一度限りのボーナスを支払うことで、うまくすれば人材が条件反射的に会社に留まるかもしれない。しかし、組織はむしろ、熱意や積極性のある従業員をいかに見極め育てるかを徹底的に検討すべきだ。「消極的残留者」の離職を認め、「積極的残留者」が留まって活躍したいと思う職場づくりに注力すべきなのだ。
筆者らは最近発表した研究で、「積極的残留者」と「消極的残留者」の両者が会社に留まることの影響を明らかにして定量化し、従業員が留まることが一律によいとする仮説に異を唱えている。
筆者らは、2つの非営利組織の職員450人以上を2年間にわたり調査した。4度の調査における退職意向および2年間の実際の退職歴に基づき、調査対象者を4つのカテゴリーに振り分けた。
組織を去る意向を示した後に実際に退職した人は「積極的退職者」、組織に残る意向を示した後に退職した人は「消極的退職者」と分類した。同様に、組織に留まる意向を示し、実際に留まった人を「積極的残留者」、退職する意向を示したものの留まった人を「消極的残留者」と分類した。その結果、職員の38%が「積極的残留者」であり、42%が「消極的残留者」、16%が「積極的退職者」、4%が「消極的退職者」であることがわかった。
組織による違いはあるだろうが、筆者らのデータはギャラップによる2020年の調査結果ともほぼ一致している。同調査では、「仕事に熱意がある」(仕事や職場に対して深く関わり、積極的にコミットする)米国の労働者は39%にすぎないという結果が出ていた。
誰が積極的に留まる可能性があるかを知ることは、組織にとって不可欠だ。筆者らのサンプルで、資金調達担当者の年末の業績を数値化したところ、積極的残留者は平均315万5190ドルを調達したのに対し、消極的残留者が集めた額は223万8134ドルで、40%以上の差があることがわかった。すなわち、積極的残留者は単に退職しないというだけでなく、その優れた生産性ゆえに、組織にとって特に有益な存在であることが立証されたのだ。
では、組織はどうやって積極的残留者と消極的残留者を見分けることができるだろうか。筆者らの調査結果によると、そのカギは組織に定着していると従業員自身が感じている度合いを理解することにありそうだ。
職務満足度や仕事のパフォーマンスをはじめ、よく知られる一連の予測因子の中で、従業員が積極的残留者かどうかを示す最良のものは、「職務定着」の度合いだった。すなわち、組織の社会構造の中でどの程度のつながりを持っているかだったのである。
これは、3つの副次的な側面から構成される。組織文化との適合度、同僚との関係性、退職した場合に何を失うことになるか、である。これらの側面から積極的残留者を見極め、エンゲージさせ、適切な人材を引き留める確率を高めるために、以下に研究に基づく提案を紹介する。