●組織文化との適合度の理解

 組織は概して、採用プロセスにおいて、文化に適合し、仕事に見合うスキルを持つ候補者を見極めるために、多大な労力を注いでいる。しかし、そのようにして雇用した後も、従業員の適合度を追跡している組織はどのくらいあるだろうか。

 自分が所属する組織にどのくらい適合しているかに関する従業員の認識は、変わるものだ。研究が示すところによると、役職や同僚、組織構造に変化があると、従業員は自身が組織に適しているかどうかをみずから再評価する。また、コロナ禍も明らかに職場の変化をうながしてきた。「いまの組織にいる将来の自分の姿」がどのくらい見えているかで、従業員の入社時の適合度が現在も継続しているかどうかを測定できる。

 企業はまた、従業員の適合度を評価するだけでなく、積極的に推進することもできる。ゼネラル・エレクトリック(GE)が開発した後継者育成の支援アプリは、その一例だ。

 このアプリは、世界中の従業員の過去の異動歴と、各自の仕事との関わりを記述した情報に基づき、一国内や一部門に限らず、組織全体の中で潜在的な仕事の機会を見つけるのに活用できる。これによって従業員はより多くの仕事を検討できるし、みずからの目標や希望に合ったキャリアプランを描くことができる。

 これらの可能性は、巨大なデータセットに保存された実際の経験を土台としている。そのため後継者候補は、自信を持って自分自身の道を選択できる。

 ●従業員同士の関係性

 従業員が自主的に退職する可能性を下げるには、職場における他の従業員との関係が重要であることが、数十年にわたる研究で指摘されている。また、組織ネットワーク分析ツールが最近開発されたことで、いまでは多くの組織が社内コミュニケーションやアドバイス、信頼のネットワークを比較的容易に評価できる。

 これらのネットワークを理解することは、重要な相互作用の特定やその管理を容易にするうえ、従業員それぞれの周囲とのつながりに関する貴重な洞察を得るのにも役立つだろう。従業員のアドバイスネットワークとバーチャルなコミュニケーションネットワークを対比させることで、リモートワークへの移行によって、仕事上の重要な人間関係が損なわれているケースが浮き彫りになるだろう。

 これとは別に、組織は従業員とその家族がコミュニティ・サポート・ネットワークに参加する機会を促進できる。たとえば、ペアレンツ・アット・リンクトイン(PAL)従業員リソースグループは、父の日の活動からアートプロジェクトに至るまで、数多くの従業員コミュニティ・イニシアチブをコロナ禍の中で発足させてきた。家族とコミュニティを結び付けることで、仕事や家庭のストレス要因を抱えながら働いているのは自分一人ではないと気づかせるのだ。

 こうした活動はより広範なサポートシステムとなり、従業員を地元コミュニティのメンバーともつなげる。このような絆を強化すれば、従業員があっさりと退職して、別の地域で仕事を得ようとする可能性を下げられるだろう。

 ●退職しづらくする「無形資産」

 給与やボーナスといった有形の報酬は、競合他社も張り合うことが容易なため、永続的な競争優位をもたらすことはない。これに対して、組織との関係で最も大事なものは何かと従業員に尋ね、それを提供しようと努めると、持続可能な優位性をつくり出すことができる。

 たとえば数多くの全国調査からは、いつ、どこで、どのように働くかの柔軟性を確保できるなら、人はある程度の報酬減を受け入れることが明らかになっている。要するに、自律性(オートノミー)に真の価値があるということだ。

 従業員の貢献度は等しくないため、組織はこうした柔軟性をどの従業員に優先的に認めるべきだろうか。筆者らは、複数の要因を考慮に入れることを勧めている。業績評価だけに頼るのではなく、むしろ昇給やボーナス、トレーニング評価、ピア評価、その他のデータについて現在進行中の情報を集め、積極的なハイパフォーマーになる可能性が高い人物を見極めるべきだ。

 また、アマゾンの「退職ボーナス制度」(Pay-to-Quit)と同じように、仕事に熱意を示さない人たちの退職を容易にするための施策を検討すべきだろう。アマゾンは毎年、フルフィルメントセンターの従業員に、このような退職ボーナス金を提供している。ボーナスを前にしてもあえて会社に残る従業員は意識的に留まると決断したわけで、より熱心で、献身的で、高業績を上げる可能性が高い。

 パンデミックは、私たちの働き方や仕事観を変えた。グレート・レジグネーション(大退職時代)の流れを変えるため、リーダーたちは、どのような条件であれば従業員が消極的ではなく積極的に会社に留まって活躍できるのかに、注意やエネルギーを集中させるべきだ。つまり、職場での適合意識や目的意識、職場およびコミュニティの中でのサポート体制、そして他の職場では見つけづらいパーソナライズされた提案が必要である。


"Are You Trying to Retain the Right Employees?" HBR.org, October 21, 2021.