太陽光パネル廃棄物の大きなコスト

 太陽光パネル業界のリサイクル能力は、今後発生する可能性の高い大量の太陽光パネル廃棄物に対処するうえでは、まったく不十分だ。

 リサイクルへの投資をうながす金銭的インセンティブは、この業界ではけっして強力とは言えない。太陽光パネルには銀などの貴重な金属が少量含まれてはいるが、主原料であるガラスは極めて安価な素材だ。また、太陽光パネルは寿命が非常に長く、その点もイノベーションが起きにくい要因になっている。

 その結果、太陽光パネルの生産が増加する一方で、リサイクルのインフラはお粗末なままに留まっている。筆者らが知る限り、米国の太陽光パネルメーカーの中でリサイクルを実施しているのはファースト・ソーラーだけだ。しかし、同社がリサイクルの対象にしているのは自社製品に限られる(同社の太陽光パネル生産量は年間200万枚)。

 現状では、太陽光パネル1枚をリサイクルするためには、推計20~30ドルのコストがかかる。それに対し、太陽光パネル1枚を廃棄するためのコストは1~2ドルだ。

 直接的なリサイクル費用は、太陽光パネルが寿命を終えた時に発生する負担の一部にすぎない。太陽光パネルはデリケートで、しかも非常に大きな機器だ。そして、たいていは住居の屋根の上に設置されている。パネルを取り外すためには、専門の作業員が必要だ。技術を持っていない人物が作業に当たれば、トラックに運び込む前に粉々になりかねない。

 加えて、一部の国の政府は、太陽光パネルを有害廃棄物に分類している。少量の重金属(カドミウム、鉛など)が含まれているためだ。この分類の下、太陽光パネルの廃棄には多くの制約がかけられており、それが大きなコストを生んでいる。たとえば、有害廃棄物の輸送は時間やルートが制限されている。

 こうした未知のコストが原因で、太陽光パネル業界が競争力を失う可能性もある。ロジスティック成長曲線により、将来の太陽光パネル設置数の推移を予測し(国立再生可能エネルギー研究所〈NREL〉の推計に基づき、2050年の米国の住宅向け太陽光パネルの設置数を最大で700ギガワット相当と想定)、かつ早い時期にパネルの買い替えが進むと考えると、2031年にはパネルの廃棄数が新規の設置数を上回るようになる。2035年には、廃棄数が新規販売数の2.56倍に達する見通しだ。

 その結果として、LCOE(均等化発電原価。発電施設が廃棄されるまでの総コストを総発電量で割った値)が現在の予測の4倍に跳ね上がってしまう。その場合、太陽光パネル業界の見通しは、2021年の時点では極めて明るいものに見えるが、廃棄物の重みにより、たちまち暗転することになる。

誰がコストを負担するのか

 廃棄物処理のコストを誰が負担するかを決めるのは、ほぼ確実に規制当局だ。最初の買い替えの波により、今後数年間で太陽光パネルの廃棄物が大幅に増加することが予測される。それを受けて、米国では太陽光パネルのリサイクルを義務付ける州法の制定が進むだろう。この動きは州政府のレベルから始まり、やがて連邦政府にも波及するに違いない。

 米国で導入される規制は、もしかすると欧州連合(EU)の電気電子廃棄物(WEEE)指令がモデルになるかもしれない。このEU指令は、EU加盟国全体で電子廃棄物のリサイクルと廃棄の法的枠組みを定めたものである。米国で電子廃棄物のリサイクルに関する州法を定めている州のほとんどは、WEEE指令を手本にしている(同指令は、2014年に太陽光パネルを対象に含めるように改正された)。このEUのルールでは、廃棄物への責任を現在の市場シェアに基づいてメーカーに割り振っている。

 悲劇的な事態を回避するための最初の一歩は、米国でもただちに同様の法律を制定するように、太陽光パネルメーカーがロビー活動を始めることだ。廃棄された太陽光パネルがゴミ処理場を埋め尽くす前に、手を打つ必要がある。2000年代後半にWEEE指令の改正案を起草し、新しいルールを導入した経験から言うと、とりわけ手ごわい課題の一つは、すでに市場から撤退した企業が生み出した大量の廃棄物(「孤児廃棄物」と呼ばれる)に対する責任を誰に取らせるのかという点であった。

 太陽光発電の場合、中国政府が定めた新しいルールにより、問題がいっそうややこしくなっている。新しいルールでは、太陽光パネルメーカーに対する補助金が削減される一方、新規の太陽光発電プロジェクトに対して競争入札を増やすものとされた。この措置は、中国メーカーが大きなシェアを占める太陽光パネル業界の不確実性を高めることになる。政府の支援が減らされれば、一部の中国メーカーは市場から撤退せざるをえない可能性がある。

 太陽光パネルの廃棄物を規制する新しい法律をいますぐに制定すべき理由の一つが、ここにある。太陽光パネル廃棄物の最初の波が差し迫っている状況で、パネルメーカーに責任を公正に分担させるためには、いま法律をつくることが不可欠なのだ。もし法律の制定が遅れたら、市場から撤退した中国メーカーが残した大量の廃棄物に対処する責任が、他のメーカーにすべてのしかかる事態になりかねない。

 しかし、まず何より必要なのは、太陽光パネルのリサイクル体制を充実させるなど、役割を終えたパネルを処理するためのインフラを整備することだ。パネルの取り外し、輸送、そして(差し当たりの)保管体制も確立しなくてはならない。

 太陽光パネルの早期の買い替えに関する筆者らの予測のうち、最も楽観的なシナリオが現実化するとしても、企業の力だけでは体制整備が間に合わないかもしれない。予想される廃棄物の量にふさわしい体制を素早く確立するためには、政府の補助金が不可欠だろう。

 補助金の導入を政府に働き掛けたい企業は、新たなエネルギー技術を普及させるために急速なイノベーションを実現させる代償として、廃棄物という負の外部性の問題がどうしても生じると主張すればよいだろう。役割を終えた太陽光パネルを処理するためのインフラの整備費用は、グリーンエネルギー普及のための研究開発で欠かせない要素と考えるべきだ。