中小メーカーとの連携
当社のような中小メーカーにとって、事業に活用できるリソース(ヒト・モノ・カネ)には常に限界がある。ビジネスにスピードが求められるいま、やりたいことすべてを自社のみで完結することは不可能であり、補完関係のある中小メーカーと必要に応じて連携して、事業を進めるという発想にたどり着くのは自然な流れだ。
具体的な連携の形には、ハードウェア担当とソフトウェア担当のような役割分担もあるし、企画・開発・製造・販売のようにバリューチェーンの要素ごとに担当を分ける形もある。ルールはシンプルだ。それぞれが自社の強みを発揮できること、そして各社が利益を享受できることである。なお、連携の形は2社に限らない。不足する要素を補完できる企業を集めた結果、複数社の連携になることもある。
東京都墨田区の中小メーカーが団結して設立した「スーパーファクトリーグループ」や、京都の「試作ネット」のように、昨今では特定の地域に存在するメーカー同士が連合を組み、シナジーを利かせて市場のニーズを満たすような取り組みも多い。これは、中小メーカー連携が機能する証でもある。中小メーカーが多い日本において、今後のものづくりのあり方の一つとして、大きなポテンシャルを秘めていると考える。
当社は現在、新規事業の一つとして、ある精密機器の製造販売事業を、関東にある中小メーカー2社(仮にA社・B社とする)と連携しながら進めている。市場に精通したA社が製品仕様を考え、B社が要素技術開発から試作まで行い、量産設計と量産は当社が行い、販売はA社が担当する、という連携の形を採用した。
なお、中小メーカーとのマッチングには工夫が必要だ。相手先の技術情報を公的情報のみから理解するのは容易ではないうえ、自社との連携に興味を持ってくれるのかどうかもわからない。当社の場合は、「紹介」を大いに利用している。銀行の紹介、知り合い企業の紹介、あるいは県庁や市役所などもビジネスマッチングに積極的だ。
ただし、コンタクトの方法は複数あるものの、そこから連携に至るまでが難しいことも事実である。事前に聞いていたような技術がなかったり、そもそも連携に消極的だったりする。オーナー系企業の場合はオーナーの独断で決まることが珍しくないので、経済合理性のみでは動かないこともある。断られる可能性を念頭に、トップ営業を繰り返すことが現実的ではないかと考えている。
中小メーカーとの連携の場合、同じような規模、同じような悩みを持つ企業同士が、互いの強みを出しあって一つの製品を開発することになるので、単独で進める場合に比べて格段に効率がよい。筆者自身の経験からも、うまくコントロールできれば十分機能する連携だと感じている。
連携のポイントは、参画する各社が自社の強みを最大限活用し、自社の弱みは他社の強みで補完しながら、全組織が利益を享受できる枠組みをつくることである。
特に同じような規模の企業が連携する場合、大手メーカーとの連携のように主従がはっきりする連携ではないので力関係が拮抗し、利益の奪い合いが生じることもある。そのためオペレーショナルな部分に関しては現場に任せる一方、プロジェクトの統括はトップマネジメントレベルで密に連携して合意するなど、無用なトラブルが起こらない仕組みを構築することにも留意する必要がある。
また、各社の力関係が拮抗することで、企業文化がぶつかり合うのも特徴の一つだ。たとえば、製品仕様を確定させてから実務に移りたい企業と、走りながら仕様を考える企業では開発の仕方が大きく異なり、思わぬところで摩擦が生じる。それ以外にも、意思決定のスピード、コストに関する考え方など、各社の文化は異なる。互いを尊重し、相手のよいところは吸収するという気持ちで活動するのは大切だ。
筆者が実践を通じて感じたメリットの一つは、リスク分散である。特に新規事業を行う際、この方法は有効だと考える。新規事業が事業化まで至る確率が非常に低く、その大半は途中で行き詰まる。限りあるリソースを一事業に投資するよりは、3分の1ずつ3つの事業に投資することでリスクを分散でき、事業創出のスピードと成功確率が高まる。
また、これらの活動を通して、信頼できるパートナー企業が得られることも重要である。良好な関係を築くことで、互いに「期待できるリソース」の一つとして考えることができ、事業を構築する発想の幅が広がることの成果は大きい。
スタートアップとの連携
昨今、ものづくりスタートアップ(ものづくりベンチャー企業)が数多く誕生している。しかし、アイデア製品を武器に成長を続ける過程では、試作や量産のフェーズで「ものづくりの場」がないという壁に必ずぶち当たる。リソースが限られているので、工場を新設するようなリスクをとることは不可能に近い。第三者に支援を依頼することとなるので、その際に連携を行うのである。
筆者が予想以上に手応えを感じているのは、この連携である。当社のような中小メーカーには、彼らほどのユニークなアイデアはない。一方で、自社工場を保有し、スタートアップが苦手とする量産設計の経験も豊富だ。このように、中小メーカーとスタートアップの間には強い補完関係が存在する。
当社が最初に挑戦したのは、和歌山大学発のものづくりスタートアップの4Dセンサーとの連携である。同社は当時マンションの一室で事業を行い、ものづくりの場がないことが課題であった。板金の穴開けのように、工場を持つ企業であれば即座に済むようなことも外注する必要があり、そこに時間と費用をかけていることに驚いた。そこで当社に入居してもらい、当社工場でものづくりができるようにした。
この連携は、当社にとってもメリットがあった。いずれ4Dセンサーが成長し、大量生産が始まる際には、当社工場を使ってもらうことで利益を享受できることになる。近年、成長のために新規事業を手掛けるメーカーも多いと思うが、ある程度確立された技術をともに事業化していくという営みは、メーカーが新規事業をゼロから始める難しさに比べれば手掛けやすいと考えられる。
スタートアップ企業と連携する際に最も難しいのは、彼らの仕事のやり方が、自社がこれまで培ってきたやり方とは大きく異なる点である。企業文化、意思決定のスピード、アグレッシブな思考などに、伝統企業がついていくことができない。この点は当社も同様であった。いつも通りのやり方を採用しようとして衝突し、カルチャーショックを受けて思考停止する。連携初期には、そのようなことがたびたび起きた。
たとえば、スタートアップの「やりながら考える」ものづくりは、当社のこれまでのものづくりとは完全に異質だ。「まずはやってみて、うまくいかなければそこで修正する」と考える相手に対して、当社は「根拠が説明できなければ前に進めない」と主張した。どちらにも悪気はなく、「なぜ理解してくれないのかわからない」という衝突が続いた。
これは一見ネガティブに聞こえるかもしれないが、伝統企業にとっては大変な刺激を得られるので意識改革につながる。一例として、次世代モビリティを製造するglafit(グラフィット)との連携を紹介する。同社は、クラウドファンディング「MAKUAKE」で2回連続1億円を超えるファンディングを達成した気鋭のスタートアップ企業である。
グラフィットが販売する電動バイクの製造を当社が請け負った際、先方が主張する組み立て時間に対して、当社で手掛けるとその倍以上の時間がかかるという問題が浮上した。また、事前の発注台数を前提に製造ラインを構築するが、製造台数が頻繁に変化するなど、これまでの企業間連携では到底起こりえない出来事が頻発した。
社員にとっては一つひとつが大きなショックであり、その都度、思考停止が起きてしまう。ただ、そのような問題を話し合いながら解決する中で、当社側に変化が見られた。ものづくりの方法は一つではなく、かつ彼らのやり方のほうが効率的な場合があることに気づいたのだ。
実際、彼らの優れた方法を真似た点もある。たとえば、当社では開発のプロセスを管理する方法として、ステージゲート方式(ステップごとに確実に進める方式)を採用していたが、これを機にスパイラル方式の開発管理(やってみて、感触を見てまた戻る)にも挑戦するなど、確実に社内に変化が起こり始めた。
大学との連携
ものづくりの世界に身を置く人間にとって、大学との産学連携は最も馴染みのある方法論だ。この方法の場合、大学が考えた技術やアイデアをメーカーが事業化するといった連携が基本となる。大学にとっては自分たちのアイデアを事業化するチャンスであり、メーカーとしては優れたアイデアを用いて新しいビジネスを始めるチャンスになり、両者にメリットのある連携と言える。
最近では予算が厳しくなる中、大学がみずからの力でお金を稼ごうという意識が強くなり、連携の橋渡し役となる「産学連携本部」のような組織を立ち上げる大学も多く、産学連携が以前に増して進めやすい。また、メーカーの研究者や開発者が大学教員になる流れも増え、事業経験のある教員やスタッフが学内に増えていることも追い風となり、産学連携は拡大基調にある。大学が主催する技術発表会やマッチングイベントなど中小メーカーも比較的情報を入手しやすい環境が整っており、このチャンスを活かさない手はない。
当社もこれまで多くの産学連携に挑戦し、事業化が進んでいる。本稿では、和牛の出産見守りシステム「牛わか」の例を紹介する。当社が2021年7月にリリースした「牛わか」は、和牛の出産時に仔牛が死亡する事故を減らすために開発した出産見守りシステムであり、当社の新規事業である。
和牛は出産の際に5%の確率で仔牛が亡くなり、その理由の多くは、出産後に母牛に踏み潰される、へその緒や羊膜が顔にまとわりついて窒息死する、寒い冬の出産のため凍死するなどが挙げられる。人が出産に立ち会ってさえいれば救える命だが、和牛は夜中に出産することが多く、そのタイミングも事前に把握できないので、農家が出産に立ち会うことは容易ではない。
一方、妊娠中の母牛は、出産が近づくと特徴的な行動をすることが知られていた。その行動をAI(人工知能)で分析することで出産のタイミングを正確に予想し、出産が近づくと農家に連絡すれば出産に立ち会うことが可能となり、分娩事故による牛の死亡事故を防げるという仕組みを搭載したのが「牛わか」である。
和牛の分娩タイミングを予測する技術は数多く製品化されてきたが、いずれも接触型であり、センサーを母牛の体に取り付ける方法だった。センサーを取り付ける農家の負担も大きいうえ、母牛のストレスも大きく、非接触で分娩タイミングが検知できる技術が求められていた。
そうした中、北里大学獣医学部から当社のネオスケア(高齢者施設で高齢者の行動を見守るカメラ)の応用で、和牛の出産見守り技術がつくれるのではないかという相談をもらった。教授自身が九州の和牛農家出身であり、世の中のニーズを熟知していることが協業の決め手となり、事業コンセプトをともにつくり、ものづくりやアルゴリズム開発は当社が行うという役割分担で、2年をかけて製品化が実現した。
産学連携に関しては、大学側が考える事業コンセプトの市場性や、大学が保有する技術の見極めが何より重要であり、かつ難しい。当社の場合、これまでに相当数の産学連携に挑戦してきたが、前述の「牛わか」を除けば成功事例はほとんど生まれていない。
大学の先生が自分たちのアイデアや技術を過大評価したり、事業化の難しさやリスクを度外視して期待されたりすることも珍しくない。また、大学が発表する論文では、特殊な環境におけるパフォーマンスを紹介されることも少なくない。事業においては安定して再現できることが何よりも重要で、力のない技術を担いで事業化をしてしまうと頓挫する可能性がある。技術の見極めは容易ではないが、第三者に意見を聞いてみる等、客観的な視点で評価することが必要である。
事業化に向けて動き始めた後も注意が必要だ。大学側は事業の成功だけでなく、優れた論文を書くことも重視しており、時には後者が優先されるケースもある。ビジネスマインドを持つ先生と組むことを意識しながら、産学連携本部のような組織を活用するなどの工夫が有効である。
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以上、本稿では当社の実践例を交えながら、連携相手ごとの仕事の進め方を説明してきた。当社のような地方の中小メーカーが実行できるのだから、どのような会社にも何かしらのチャンスはある。自社の強みを利用し互いが協力し合うことで、新しい価値を生むことができるはずだ。
最終回となる第3回では、オープン・イノベーションが自社にどのような変化をもたらすのかを示したい。