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ネットフリックスは、同社のコアビジネスである映画やテレビ番組の配信に加えて、新たにゲーム配信を開始した。会員によるサービスの利用時間を伸ばし、解約率を下げることが狙いだと思われるが、この取り組みは期待するような成果を生まないだろうと筆者らは予想する。隣接戦略を実行する場合、ネットフリックスのように既存のコアビジネスを守るためでなく、新しいコアビジネスをつくることを目的にしなければ、そこに成長の機会を見出すことはできない。


 ネットフリックスは2021年夏、自社の配信プラットフォームでゲームを提供すると発表した。11月初旬には、第一弾のライブゲームの配信をアンドロイド端末向けに開始している。ゲームは配信サービスの映画やテレビ番組と一緒に提供され、セットの月額料金となっている。同社は、ジンガやエレクトロニック・アーツで経験を積んだゲーム業界幹部を事業のトップに採用した。

 映画とテレビ番組からゲームへの参入は、「隣接戦略」の一例だ。これは成功するだろうか。おそらくしないだろう。

 隣接戦略が成功するかどうかは、企業がその戦略を採用する理由にかかっている。理由は、主に次の3つに分類される。既存のコアビジネスを守るため、既存のコアビジネスとのクロスセルを行うため、そしてまったく新しいコアビジネスをつくるためだ。

 3つの戦略はいずれも付加価値をもたらすが、最初の2つは過去に縛られた弱気なサービスにつながる傾向があるのに対し、3つ目の戦略は大胆で差別化された製品を生み、未来に向けた大きな賭けとなる。

 特に、コアを守るための隣接戦略は、成功した強力なコアビジネスを持つ企業によく見られる。こうした企業は、金の卵を産むガチョウを守ることに注力する大きな動機がある。また、参入する隣接分野に最高の人材やリソースを投入するために必要なスキルもなく、模倣に終わることが少なくない。

 1990年代の例を挙げると、マイクロソフトのインターネットエクスプローラーはウィンドウズとオフィスを守るために、グーグルプラスは支配的な検索ビジネスを守るためにつくられたが、どちらのサービスも単独で成立するほど強力ではなかった。

 ネットフリックスの隣接戦略は、明らかに既存のコアビジネスを守るための戦略だ。同社は、既存顧客に追加料金なしで新たな特典を提供している(ゲームに追加料金を課していれば、クロスセルといえる)。

 ゲームの追加でネットフリックスが負担する高額な変動費は、解約率の低下とプラットフォームの利用時間の増加によって相殺されることが期待されている。それを通じて、同社の戦略にとって重要な、将来的な値上げの土台が構築されるかもしれない。同社の会員数は現在、2億1400万人だが、その伸びは鈍化している。こうした傾向から、新規会員の獲得が困難になるにつれ、将来の収益増のための値上げの重要性は増すと考えられる。

 ネットフリックスがゲームを無料で提供することで、そのゲームはそれなりに面白いかもしれないが、特別素晴らしいわけでも、他と差別化できているわけでもないという、弱気な取り組みであることを顧客に示している。同社はゲームを有料化し、もっと大胆になるべきだった。消費者は、素晴らしい新作ゲームやゲーム関連のコンテンツには喜んでお金を払う。ある調査によると、ミレニアル世代の71%がゲームをし、ゲームコンテンツに毎月112ドルを費やしている

 コアビジネスとのクロスセルを目的とした隣接戦略は、成功する傾向にある。なぜなら、新しいサービスは顧客の支出を増加させるのに十分な、他にはない価値を持つはずだからだ。アップルがiPodを「1000曲をポケットに」と謳って発売した時、音楽そのものの販売に乗り出すのは時間の問題だった。同社の音楽配信収入は、2020年に41億ドルに達している。

 別の例では、決済サービスのスクエアは最近、同業のアフターペイを買収し、同社の後払いサービスとプラットフォームを獲得した。スクエアは、自社の月間アクティブユーザー3000万人に、アフターペイの製品をクロスセルすることを目論んでいる。アフターペイはスクエアと取引形態が異なるため(6週間の支払い猶予期間は無料で手数料なし)、ユーザーがそれまでも簡単に入手できたカテゴリーをクロスセルするように、単なる利便性を提供するだけではない。新サービスは、異なるものとのクロスセルであり、ユーザーの間に興奮と好奇心を育むだろう。