ネットフリックスは、価格プレミアムに値するほど差別化されたゲームサービスを構築するか、あるいは買収することで、より高い目標を設定することができる。しかし、理想的な隣接戦略は、まったく新しいカテゴリーを構築することだ。

 ネットフリックスがそれを実現するのに役立つのが、以下の3つの指針だ。

 ●ネットフリックスのコアベネフィットに忠実である

 ネットフリックスのミッションは、ストーリーテリングによって世界を楽しませることだ。具体的には、同社は次のように述べている。「私たちはエンターテインメントの世界最大のファンであり、あなたが次のお気に入りのストーリーを見つける手助けをすることを常に目指している」

 ネットフリックスが優れているのは、「リーンバック」(くつろいでいる)の状態で見ることができ、しばしばマルチタスクもできる、幅広く尽きることのないさまざまなストーリーを提供していることだ。2018年のニールセンのデータによると、消費者の45%がテレビを見ながらスマートフォンやセカンドスクリーンを使っているという。

 これこそが、ゲームがネットフリックスに不向きな理由だ。ゲームは「リーンフォワード」(集中している)のアクティビティなのだ。ゲームは受動的ではなく能動的な活動であり、リラックスするものではなく参加するものである。

 ネットフリックスは、ワールドクラスのストーリーテリングを受動的に楽しむという「リーンバック」な性質に適した隣接分野を探すべきだ。もっと言えば、それをつくり出すべきである。

 ●スーパーコンシューマーのストーリーに対する情熱に従う

 スーパーコンシューマーとは、そのカテゴリーの商品を最も多く購入し、関心を持ち、知識がある最上層の消費者だ。1つのカテゴリーのスーパーコンシューマーは、別の9つのカテゴリーのスーパーコンシューマーになる傾向があり、その中には確実なものもあれば、そうでないものもある。

 たとえば、90カ国でトレンド1位になっている韓国の番組『イカゲーム』は、ネットフリックスで最も視聴された番組になろうとしている。ネットフリックスのスーパーコンシューマーは、1日に全9話を視聴した後、何をするだろう。彼らは、レビュー、隠されたメッセージ、「メイキング」のコンテンツ、俳優や監督の経歴など、番組の背景にあるコンテンツを求める。こうしたコンテンツの制作の多くはユーチューブ上の愛好家に委ねられているが、ネットフリックスは番組そのものと同じくらい魅力的な、番組に関する特別コンテンツを簡単につくることができる。

 トップゲーマーは、ゲームをするだけでなく、他の人々がゲームをする様子を何時間も視聴する。18~25歳のゲーマーは、スポーツ中継を見るよりも、オンラインで他の人がゲームをしているのを見ることに77%も多くの時間を費やしている。ネットフリックスは、ESPNのビデオゲーム版がつくれるだけの高いプロダクションバリューをもたらし、eスポーツメディアの未来に大きく賭けることができる。

 ●価格プレミアムに値する新しいカテゴリーをつくる

 新しいカテゴリーは、新たなカテゴリーを生む。ネットフリックスが『ハウス・オブ・カード』のシーズン全話を初めて配信した時、「ビンジ・ウォッチング」(いっき見)というカテゴリーが生まれた。また、同社がスマートフォンやタブレットでほぼユビキタスなストリーミングを可能にしたことで、非同期の一人視聴が可能となり、その結果、ソーシャルビューイングの隙間が生まれた。それもネットフリックスにうってつけのカテゴリーだ。

 新しいカテゴリーをつくるには、3つの要素が必要だ。画期的なサービス、画期的なビジネスモデル、そして画期的なデータフライホイールだ。

 ネットフリックスのケースでは、画期的なビジネスモデルには、さまざまなものが考えられる。既存のプラットフォームの中に、プレミアム会員になることで利用できる別のチャンネルを設ける。あるいは、「ディスコード」のようなメッセージングとコミュニティのプラットフォームを買収することもできる。ディスコードでは、ゲーマーが集まってゲームについて対話をしたり、スーパーコンシューマーのコミュニティを組織したりしている。

 ネットフリックスはさらに、クリエイターがコンテンツを共有して収益化する「パトレオン」を買収し、スーパーコンシューマー、俳優、監督、その他の現場責任者らが、他のスーパーコンシューマーと直接つながるようにすることもできる。スーパーコンシューマーは、『イカゲーム』の韓国語から英語への翻訳の信頼性と質を向上させることもできる。これらを通じて、現在の定額料金に価格プレミアムを付けることができるはずだ。

「コンテンツについてのコンテンツ」に加えて、ディスコードやパトレオンのようなコミュニティベースのプラットフォームがあれば、ネットフリックスは自社のコンテンツを愛するスーパーコンシューマーの熱意をさらに高め、コアビジネスを補強する新たな収益源を構築することができる。

 そして何よりも、これらのビジネスモデルは消費者に関する大量のデータをもたらす。そのデータを得ることで、家庭内の誰が、どのコンテンツを実際に視聴しているかを把握できるようになり、ネットフリックスが抱える重大なデータギャップの問題を一つ解決することができる。それらの情報は、どのようなコンテンツを制作すべきかを予測するのに役立ち、将来の競合他社との差別化につながる。

 このような戦略は、既存のプラットフォームにゲームを追加するよりも野心的だ。ネットフリックスが、既存の映画やテレビ番組のコンテンツ以外にも成長の機会を見出したいと切望しているなら、本稿で示した隣接戦略がそれを後押しする可能性は高い。


"Gaming Isn't Netflix's Best Opportunity for Growth," HBR.org, November 05, 2021.