
組織のダイバーシティ向上に向けて、無意識のバイアスをなくし、インクルーシブリーダーを育てることがますます重要になっている。その一方で、意識的に相手を差別したり、排除したりしようとする「エクスクルーダー」の存在が問題となっている。特定の社会的グループに属していることを理由に、彼らが一部の同僚に差別的な態度を取り続けることで大きな不利益が生じ、不平等が改善されるどころか逆に根づいてしまいかねない。本稿では、「腐ったリンゴ」であるエクスクルーダーを特定し、適切に対処するための具体的方策を論じる。
「アンコンシャス(無意識)バイアス」と「インクルーシブリーダーシップ」は、ダイバーシティ(多様性)を語る際のキーワードになりつつある。両者に関連する研修が適切な運用に基づいて実施されることは、ダイバーシティとインクルージョンに理解ある従業員を育成し、維持するためのカギを握る。最近の研究がそのように強調していることを考えれば、これは理にかなった現象である。
では、周囲から疑いようもなく、意図的にバイアスを発動するリーダーに対して、企業はどう対応すべきだろうか。
意識的な「エクスクルーダー」、すなわち相手をわざわざ排除しようとするリーダーは、企業がさまざまな介入措置を講じても、特定の社会的グループに属していることを理由に、一部の同僚に対して差別的な態度を取り続ける。このようなリーダーはごく一握りあっても、往々にして強い影響力を持っているため、組織の上層部で近頃、ジェンダー平等がまったく進展していない一因になっているといえるだろう。
事実、スイスにある企業90社の従業員32万人以上を対象に行った筆者らの最新研究からは、経営幹部のポジションにいる女性の割合が、過去5年間でわずか1%しか増加していないことが明らかになっている。かつ、この傾向はスイス特有のものではない。世界中の統計で同様の現象が示されているのだ。
また、バイアスと排除のメカニズムゆえに、STEM(科学、技術、工学、数学)分野におけるジェンダーダイバーシティの向上が足踏み状態にあることも、別の新たな研究によって指摘されている。
あなたの周囲にも、おそらく次のような人がいるのではないだろうか。
「妻が焼きもちを焼く(あるいは妻を侮辱することになる)から」と、博士課程の女子学生を採用せず、学部内の女性職員を仕事の後の一杯に招待しない教授。自分のチームに女性が一人もいないにもかかわらず、「昇進するのは、どうせ女性だから」と、自分の昇進のチャンスがないことに文句を言う金融業界の男性。
「結局、妊娠して退職」するので会社に迷惑をかけることになるからと、若い女性の採用を拒否する事業責任者。あるいは、女性がいまも家事や介護の大部分を担っているのは「これまでずっとそうだったから」であり、「男性よりもうまくできるからだ」と主張する取締役会のメンバー。
正当化の仕方は異なるが、これらの事例がもたらす結果には、完全なる一貫性が見られる。つまり、意識的に特定の人を排除するエクスクルーダーは、女性の雇用機会に不利益をもたらし、さまざまな方法で不平等を永続させているのだ。
・採用と昇進における不利益:各候補者の採用や昇進にネガティブな影響を及ぼしうるバイアスには、2つの形がある。みずからの決定に影響を及ぼす採用マネジャー自身のバイアスが原因となる直接バイアス、そして自分以外の誰かのバイアスを代弁すること(たとえば先に挙げた教授の妻の事例)が原因となる間接バイアスである。
・仕事と家庭に関する社内制度:前述した取締役会メンバーが発したようなコメントを聞けば、その会社の仕事と家庭に関する制度と利用度がわかる。そして、そのような制度を利用することに対する社内の反応には、上層部からの影響が色濃く見られ、ロールモデルとしてのリーダーの行動を通じて組織全体に波及する。
取締役会メンバーのコメントは、女性が家族のケアをすることを正当化しつつ、男性が家族のケアをする妨げになる。そのように男性が家族のケアをしづらくなれば、その分、女性のキャリアにも影響が及び、不平等がますます根を張る。
たとえば、スイスでは父親が2週間の育児休暇を取得できる法律が新たに制定されたものの、それをいつ、どのように取得するかはマネジャーの裁量に任されている。従業員は依然として、同僚のネガティブな反応を見て、その制度を利用するかどうかを決めているのが現状だ。