
ジェンダー不平等の解消に向けて、企業はさまざまな取り組みを行なっているが、女性の採用を増やしても、女性の定着という点では努力が不足しているのが現状だ。その理由の一つとして、パフォーマンスに関する公平で客観的なはずの相対評価が、むしろ女性の定着を妨げている可能性を筆者らは指摘する。「男性のほうが高いパフォーマンスを上げる」「女性は他者を傷つけないことを優先する」という思い込みから男女に異なる影響を与え、パフォーマンスに差が出るというのだ。本稿では、相対評価がもたらすインパクトを論じ、競争環境で女性の妨げにならない仕組みを構築するための3つの有効策を紹介する。
採用におけるジェンダー平等の問題を改善するために、数多くの取り組みが行われてきた。しかし残念なことに、そのようなイニシアティブは採用候補者に女性が増える一助にはなるが、女性の定着と成長という点では不足していることが多い。
当然ながら、それには多くの理由がある。だが、この課題がいまもなお解決には至らない重要かつ全般的な要因の一つとして、パフォーマンス評価と昇進の決定に関する企業のアプローチが挙げられる。
具体的には、多くの企業は何らかの形で従業員の順位付けを行い、それぞれのパフォーマンスを相対評価し、その結果に基づき昇進者を決定している。これまでもこのような仕組みの長所と短所の研究がされてきたが、組織のジェンダーリプレゼンテーション[編注]に与えるインパクトに関しては、ほとんど検証されることがなかった。
一見したところ、客観的でバイアスのない評価システムが、なぜ不公平をもたらすのか。その理由は、従業員の相対評価が行われるパフォーマンス管理システムが、ある特殊な競争環境をつくり出すからだ。
男性と女性で競争に対する反応が異なる場合があることは先行研究でも示されてきたが、その多くは限られた物理的リソース、あるいは金銭的リソースをめぐる競争に着目してきた。パフォーマンスの順位付けは、具体的なリソースをめぐる競争を伴うとは限らない。そこには社会的地位をめぐる競争が存在するのだ。
社会的地位の順位付けが与える影響が男性と女性では異なること、その結果として、このような評価システムが女性従業員の定着に向けた組織の取り組みの妨げになる可能性があることをより深く理解するために、筆者のチームは、スペインで学生を対象にした一連の実験室実験を行った。その後、筆者は同様の実験をイタリアとオランダでも実施した。
実験の参加者が与えられる課題は、数字を探し出し、その合計を計算するという単純なものだ。また参加者は、課題を1問解くごとに1ユーロ与えられると告げられる。課題を解くことに対して全員に平等なインセンティブが与えられることで、金銭的なリソースを奪い合う競争環境は排除された。
そのうえで一方のグループに対しては、参加者の一人がそれぞれのパフォーマンスに基づき、全員を順位付けすると伝えた。もう一方のグループには、そのような告知はされなかった。これらを通じて、社会的地位の順位づけがパフォーマンスに与える影響のみを切り離して検証できる環境をつくることができた。
すなわち、2つのグループの間で唯一異なるのは、自分が順位付けされることを事前に伝えられたか否かであり、どちらのグループも課題を解くことについては、まったく同じ金銭的動機づけをされたことになる。にもかかわらず、実験の結果、自分に順位が付けられるとわかっただけで、参加者のパフォーマンスに大きな影響が出ることが判明した。また、その影響は男性と女性で明らかな違いがあることも明らかになった。
順位が付けられると告げられなかったグループでは、事実上、パフォーマンスに男女差はなかった。ところが、順位付けがされると告げられたグループの男性のパフォーマンスは、告知されなかったグループの男性に比べて高く、女性のパフォーマンスは告知されなかったグループの女性よりも大幅に低いものであった。
この結果、順位付けをされると告げられたグループでは、男女間に大きな差が生まれた。男性の参加者は女性の参加者に比べて、40%近くも多くの課題を解いたのである。