リーダーが共感を超えて
思いやりを持つべき理由
ユニリーバ前CEOのポール・ポルマンは、次のように述べている。「共感型のリーダーシップでは、自分は何一つ決断が下せないだろう。なぜかといえば、共感すると相手と同じ気持ちになってしまうため、より多くの人々の利益を考えることができないからだ」
ポールの言う通りだ。共感には多くの利点があるが、リーダーが指針にすべきではないだろう。
人は共感を通して正しい行いをすることもあるが、間違いを犯してしまうこともある。『反共感論』の著者であり、イェール大学名誉教授(認知科学と心理学を担当)のポール・ブルームが行なった実験研究では、共感が人の判断を歪める可能性が明らかになっている。
実験では、ある末期患者の少年が自分の痛みについて語った録音を、2つのグループに聴いてもらった。一方のグループは、その少年の感情がどのようなものかを理解し、それに同調するよう指示された。もう一方のグループは、感情移入せず、客観的に聴くように指示を受けた。
被験者は録音を聴いた後に、医師が管理する優先治療者リストで、その少年の優先度を上げるべきかどうかの回答を求められた。共感のグループでは、被験者の4分の3が医療専門家の意見に反して「優先度を上げるべきだ」と判断し、より重度の高い患者をリスクにさらす可能性が示された。客観的なグループで同様の対応を推奨したのは、被験者の3分の1にすぎなかった。
リーダーにとって、共感は判断を曇らせ、バイアスを促し、賢明な決断を下す能力を低下させる可能性がある。とはいえ、共感は完全に回避すべきものでもない。共感力のないリーダーは、点火プラグのないエンジンのようなものであり、それではチームを牽引することはできない。共感は、社員とのつながりを築くために不可欠であり、その着火を利用して、思いやりの心でリーダーシップを執ることができる。
そこに、リーダーにとっての難しさがある。共感の罠に囚われてしまいがちで、そこから思いやりに移行することができないのだ。