共感の罠から逃れ、思いやりの心でリーダーシップを執る

 リーダーにとって、「共感のハイジャック」を克服することは欠かせないスキルだ。このスキルを習得するうえで忘れてならないのは、共感から離れたからといって、人間性や優しさが失われるわけではないことだ。むしろ困難な状況の中で、社員をいっそう適切に支援できるようになる。

 より思いやりのあるリーダーを目指すために、共感を触媒として利用するうえで重要な5つの戦略を以下に紹介しよう。

 ●精神的・感情的に一歩距離を取る

 苦しんでいる人と一緒にいる時、共感のハイジャックに巻き込まれないためには、精神的・感情的に一歩距離を取るようにすることだ。感情というスペースの外に出て、より明瞭な視点から状況や相手を見る。このような視点を持って初めて、相手を助けることができる。

 このように感情的な距離を置くことは不親切だと感じるかもしれないが、これは相手から遠ざかっているのではなく、相手の問題を解決するために問題から遠ざかっているのだと覚えておいてほしい。

 ●相手が何を必要としているかを尋ねる

「あなたは何を必要としていますか」という質問をするだけで、相手に必要なものを考えるきっかけを与えて、それが問題解決の糸口になる。そうすることにより、相手を手助けするための方法をよりよく知ることができるだろう。苦しんでいる人にとっては、話を聞いてもらい、理解してもらえたと感じることが救われるための第一歩なのである。

 ●「何もしないこと」の力を肝に銘じる

 リーダーは一般的に、問題を片づけることに長けている。しかし、困難を抱えている社員に関して言えば、覚えておくべきことがある。多くの状況でリーダーに求められているのは、問題を解決することではなく、聞く耳を持ち、そこにいて相手を思いやることだ。

 問題の多くは、耳を傾けてもらい、問題を認識してもらうだけで十分なのだ。このように「何もしないこと」が、最も効果的な支援方法になるのはよくあることだ。

 ●相手がみずから解決策を見出せるよう導く

 リーダーシップとは、相手に代わって問題を解決することではなく、人を育て、成長させることにより、みずから問題を解決できる力を授けることである。とっさに相手が抱えている問題を解決し、相手が自分の人生を通して学習する機会を奪ってしまうのは避けたい。そうではなくコーチやメンターの役割を演じ、相手がみずから答えを見つけられるよう導こう。

 ●セルフケアを実践する

 自分なりのセルフケアを実践して、セルフコンパッションを持つ。他者の感情をマネジメントするために自分の感情をコントロールすることは、負荷がかかるからだ。「感情労働」としばしば呼ばれるように、相手の感情を吸収し、彼らが語る感情を反射、すなわち相手に伝え返し、さらに方向転換させる作業は、大きな精神的負担となる。

 だからこそリーダーは休息や睡眠を取り、しっかりと食事をして、有意義な人間関係を築き、マインドフルネスを実践し、セルフケアを行わなければならない。レジリエンスを保ち、精神的にも安定して、自分自身と同調する方法を見つける必要がある。

 このような資質を身につけたリーダーが職場に存在すれば、社員はリーダーを頼ることができ、ウェルビーイングの中に慰めと安らぎを見出すことができるのだ。

本稿は、ラスムス・フーガードとジャクリーン・カーターの共著Compassionate Leadershipを一部抜粋・翻案したものである。


"Connect with Empathy, But Lead with Compassion," HBR.org, December 23, 2021.