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リーダーには「共感」が必要だと言われる。しかし、「感情労働」という言葉もあるように、部下に共感する必要性が増すほどリーダーには大きな負担が生じ、押し潰されてしまう可能性がある。また、共感はリーダーの判断を曇らせ、バイアスを促し、賢明な決断を下す能力を低下させる。このような状態を回避するカギが「思いやり」だ。本稿では、共感の罠に囚われることを回避し、より思いやりのあるリーダーを目指すうえで重要な5つの戦略を紹介する。


 この2年近く、リーダーはチーフカウンセラーの役割を強いられてきた。チームがコロナ禍で受けた悲しみや喪失感から立ち直るのを助け、社員のメンタルヘルスの不調を食い止め、彼らの不安にきめ細かく配慮し、折に触れて自身の弱さも隠さず公にしてきた。要するに、大きな感情負担を背負ってきたのである。

 当然ながら、このような「共感」は優れたリーダーシップを実践するうえで重要だ。ただし、度がすぎると重荷に押し潰されかねず、問題となる。筆者らがリーダーに「社員の困難を背負う必要はない」と伝えると、彼らはようやく自分が背負っている重荷を下ろした。

 リーダーとして共感という重荷を背負うのではなく、「思いやり」を通じて気分を高められると実感すれば、自分の体験を変えていくことができる。これはチームとの関わり方を根本から変えることであり、あらゆる立場の人に大きな恩恵をもたらす。そのためにはまず、共感と思いやりの違いを理解することから始めなくてはならない。

共感と思いやりは何が違うのか

 最初に、言葉を定義しておこう。「共感」「思いやり」、そして「同情」という単語は区別なく使われる場合も多い。いずれも善良さや利他性を表す言葉だが、まったく同じ体験を指すわけではない。

 それは、思いやりが持つ2つの際立った性質を考えるとわかりやすいだろう。つまり、「相手の気持ちを理解すること」と「相手の苦しみを和らげるために、みずから行動すること」である。

 下図は、思いやりとそれに似た体験、すなわち共感、同情、憐れみとの違いを視覚的に示したものである。

 左下は「憐れみ」である。相手に憐れみを感じている時は、行動を起こそうという意思はほとんどなく、相手の体験を理解していることもほとんどない。相手のことが単にかわいそうだと思っている状態だ。そこから1つ右上に上がると「同情」になる。相手を助けようという意思と相手に対する理解がやや高まる。相手の気持ちを察するのだ。

 さらに1つ上がると「共感」に至る。共感では、相手の体験を自分のことのように、理屈抜きで理解する。相手と一緒になって感じる。文字通り、相手の感情を汲み取り、自分の感情を重ね合わせるのだ。立派なことではあるが、相手の孤独感を和らげること以外、必ずしも相手を助けることにはならない。

 最後に、最も右上は、相手が体験していることを深く理解し、かつ行動を起こそうという意思がある。相手の体験に対する理解は共感よりも深い。そこに理性的な理解だけでなく、感情的な気づきも働いているからだ。思いやりは、共感から一歩離れて、苦しんでいる人を助けるために、自分自身に何ができるかを自問した時に生じる。このように、思いやりは感情ではなく意思なのだ。