●勇気あるリーダーは率直さと謙虚さを備えている
どれだけ恐れるべき理由があっても、恐れを知らないふりをする。あるいは自分を含めて、すべての答えを持ち合わせいる人がいるわけがないことが明白であっても、知ったかぶりをする。それを素晴らしいことだとは誰も思わない。むしろ本人にとっても、その人物を頼りにしている人たちにとっても危険なことだ。
2000年以上前に哲学者のアリストテレスが言ったように、勇気と無謀は明らかに異なる。集団でハイキングに出かけて、彼らを熊のいる場所に導けば、全員が理由なく襲われるのは目に見えている。それは勇敢な行動ではなく、愚かな行為だ。同様に、自分の恐怖心や専門家の知識が必要な状況を認めたくないばかりに、従業員をさまざまなトラブルに巻き込むことも、勇敢な行動ではなく危険な行為だ。
つまり、あなたの有能さを周囲が理解しているならば、「自分にはわからない」と認めたり、「手伝ってほしい」と言ったりするほうが、強いリーダーに見えるのだ。答えを知らなくても、助けを求めても、それは弱さではない。
たとえば、新型コロナウイルスの感染拡大により、さまざま困難に直面したことを考えてみてほしい。上司がオンラインでまったく困っていないかのように振る舞っていたら、あなたはその上司を尊敬したり、魅力を感じたりしただろうか。反対に、その上司が仕事でも私生活でもかつてない困難に直面していると認めたうえで、ともに困難を乗り越え、その暁にはより強いチームに成長しようと約束したとしたら、どうだろうか。
謝罪についても同じことが言える。リーダーが素直に「申し訳ありません、私の失敗です」と伝えれば好感が増し、信用の置ける人物だと思うだろう。そして、状況を改善するために力を貸したいと思うはずだ。それとは反対に、嘘をついたり、言うべきことを言わなかったりして自分の失敗をごまかそうとする人を、優れたリーダーやヒーローだとは思わない。弱い人間か最低な人間だと判断し、急いで離れようとするだろう。
●勇気あるリーダーは信念を守ることを第一に考える
真のリーダーシップとは、人気投票に勝利することではない。メンバーの代表者として、重要な仕事をすることだ。意見の相違は常に存在し、経営資源も限られているため、時には一部の人の機嫌を損ねることもある。それに耐えられなければ、おそらく重要な仕事を進めることはできないだろう。
マイケル・ブルームバーグはニューヨーク市長として在任中、この事実をはっきりと認識していた。「私が任期を終えるにあたり(中略)高い支持率を得ていたら、それはすなわち最後の数年間を無駄にしたということだ」と彼は語った。「常に難問に取り組むべきであり、誰も手をつけないような、人気のない課題に挑むべきだ」。物事がうまく進んでいる時は、ブルームバーグによると「自分にとって簡単なコースでスキーをしているようなものである。そのような時はもっと急斜面に移動すべきだ」。
人気投票としてのリーダーシップは、要するに、高校生活やハリウッド映画で見られるリーダーシップ観である。優れたリーダーシップとは、自分が下す決断のディフェンシビリティ(持続的競合優位性)を通じて、信頼と尊敬を得ることを指す。一時的に、みずからの地位や人気を失うような大きな犠牲を払ってでも、勇気ある行動を取り、信念を貫くことである。
●勇気あるリーダーは従業員が安全だと感じられる環境の構築に尽力する
非常に多くの組織で見られるように、従業員が挑戦を躊躇するような正当な理由があるにもかかわらず、彼らに常にチャレンジを求めることは、実際のところ強いリーダーシップではない。しかしながら、「勇気を奮え」と従業員にプレッシャーをかけるリーダーがやっていることは、本質的にそれだ。
そのようなリーダーは、暗にこう言っている。自分には勇気が欠けているので、従業員が正直に振る舞い、新しいことに挑戦し、正しくリスクを冒そうと思えるような環境を用意することができない。それでも勇気を出して正直に振る舞い、新しいことに挑戦し、リスクを冒しなさい、というわけだ。
それでは残念ながら、個人や組織が学習し、変化して、成功するために必要なことを、従業員が日常的に実行するような環境をつくることはできない。そのやり方がうまくいかないことは、スーパーヒーローでさえ知っている。彼らは自分以外の誰かをスーパーヒーローに仕立てようとしているわけではなく、勇気ある行動が日常的に必要とされない、安全な社会をつくるために時間を割いているのだ。
いま私たちが必要としているリーダーは、お世辞を言ったり、媚びたりする従業員を従えるのではなく、しっかりと意見を述べてくれることで、リーダー自身の学習をうながすような従業員を周囲に集め、彼らを高く評価するリーダーだ。
たとえうまくいかなかったとしても、新しいことに挑戦した従業員を咎めるのではなく、その挑戦に報いるリーダーである。多様な視点を排除する時代遅れの仕組みを、改革するリーダーが必要なのだ。
今日のリーダーに必要とされているのは、従業員に勇気ある行動を要求するのではなく、みずからその手本を示すことだ。フレッド・ケラーが実践したように、たとえ自分の地位やジェンダー、人種などの属性により、自分にはそれをやる必要がなかったとしても、あえて自分自身の脆弱さを認めようとすることである。
"What Courageous Leaders Do Differently," HBR.org, January 07, 2022.