研究ではまず、複数の動画を視聴した後でウサギの穴に落ちやすくなるのか、それとも落ちにくくなるのかを調査した。参加者には、異なる5本のミュージックビデオ、あるいは1本のミュージックビデオを見てもらった後、さらに別の動画を見たいか、それとも仕事のタスクをこなしたいかを質問した。
理論的には、ミュージックビデオを5本続けて見ると飽きてしまい、もっと見たいという欲求が減ると考えられる。しかし、実際にはその逆であることがわかった。ミュージックビデオを5本見ると、1本しか見なかった場合に比べて、さらにもう1本見ることを選択する確率が10%高くなったのだ。
次に、視聴した複数の動画に類似性があると定義した場合の影響を調べた。参加者に同じ2本の動画を見せたのち、半数の参加者には動画に同じカテゴリー(「教育ビデオ」)のラベルを明示し、残りの半数に対してはカテゴリーのラベルを付けなかった。すると、カテゴリーラベルを付けて動画の類似性を高めただけで、関連する別の動画を見ることを選択する確率が21%高くなった。
最後に、複数の動画を連続して視聴した場合と、同じ数の動画を中断しながら視聴した場合の行動を調べた。1つのグループには、仕事を2つこなした後で類似する動画を2本見てもらい、もう1つのグループには、同じ4つのタスクを動画の視聴を挟んで交互にこなしてもらった(仕事、動画、仕事、動画の順)。
同じ活動でも、それを行う順番で大きな違いが生じた。動画を立て続けに視聴した参加者は、仕事と動画視聴を交互に行った参加者に比べて、別の動画の視聴を選択する確率が22%高かった。
消費するコンテンツの順番や種類といった一見些細なことが、類似するコンテンツを消費し続けるかどうかの判断に大きな影響を与えることは明らかだ。では、何がこの効果をもたらすのか。
先行研究によると、筆者らが特定した3つの要因は、いずれも類似したメディアの「アクセシビリティ」を高めることが示唆されている。ここでいうアクセシビリティとは、そのコンテンツをどれだけ身近に感じるか、要するに第一想起されるのかを指す。
人はアクセシビリティを感じられるものに対して、処理が容易で、もっと楽しめると期待する。自分が本来やりたいこと(仕事を終わらせる、単に休憩を取るなど)に反する行為であっても、関連するメディアを見るという行動のほうが「しっくりくる」ため、ウサギの穴にはまり続けることを選ぶのだ。
ここまでの結果は、仕事中にインスタグラムやユーチューブなどのアプリに気を取られやすい理由も示唆している。
これらのプラットフォームは、視聴者をソーシャルメディアのウサギの穴に閉じ込めるようにできている。簡単に視聴できる短いコンテンツを提供することで、複数の動画や投稿を連続で閲覧しやすくなっている。また、類似するコンテンツを自動的に提案したり、類似する動画を自動的に再生したりするものも多く、中断されにくくしているのだ。