リショアリングの動きはすでに始まっている。シュナイダーエレクトリックは最近、テキサス州エルパソなど北米3カ所で新たに生産施設を建設することを決めた。また、自動車メーカーやバッテリーメーカーは今後5年の間に、電気自動車用バッテリー工場を米国内に13カ所建設する計画を明らかにしている。太陽光発電、半導体、バイオテクノロジーといった業界でも、同様の発表がなされた

 ウクライナ戦争と中ロ接近は、欧米と中国とロシアの間でのエネルギーや原材料、工業部品、製品の流通のあり方を根本から変えるだろう。それに伴い、リショアリングの潮流がいっそう加速することが予想される。

 この戦争で石油と天然ガスの価格が高騰すれば、輸送コストが上昇することは言うまでもない。しかし、そこまで明確ではないが、同じくらい重要な問題がある。それは、今回の戦争が原因でロシアの輸送インフラを利用することが難しくなり、アジアでの生産を支援しづらくなる点だ。

 実際、中国で部品や完成品を製造し、ロシアの鉄道網でそれらを東欧や西欧に輸送している企業は多い。もちろん空路で輸送することも可能だが、コストが大幅にかさむ。現在のように航空機がロシアを迂回しなければならない状況では、とりわけ空路の輸送コストが高くなる。

 同様に重要なのが、ウクライナが半導体製造用のネオンガスの供給で、世界の約50%のシェアを握っている点だ。世界各国の政府と大企業は現在、代替可能な供給源を確保しようと躍起になっているが、供給はすでに逼迫し始め、相場は急騰している。

 ロシアとウクライナは、トウモロコシや大麦、小麦などの穀物や肥料の大口輸出国でもある。この戦争が世界の食料供給におよぼす影響の全容はまだ明確に見えてこないが、相場はすでに急上昇している

 これらの要因によって、ローカルサプライチェーン戦略に対する関心が高まっている。最近、フランス電力公社(EDF)は、ゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力発電関連事業の一部を買収することで合意した。この事業は、GEが2015年にフランスのアルストムから買収したものだ。

 これらの動きは、グローバル化からローカル化への移行の一例といえる。フランスは原子力発電への依存を強めつつあり、すでに電力供給の70%を原子力発電が占めている。このような状況では、原子力発電所に関わるサプライチェーン全体を、これまで以上にコントロールする必要があると考えたのだ。

 もう一つの例は、半導体製造機器だ。米国とオランダの政府は、半導体製造に用いられるリソグラフィ装置の世界最大手メーカーであるASMLに対して、最先端の装置を中国に販売することを禁止した