
米国でフロントラインワーカーの離職が相次いでいる。企業は定着率を高めようと賃金の引き上げを行っているが、人材を取り戻すには至っていない。離職理由として、給与の問題と新型コロナウイルス感染拡大の影響が挙げられることは確かだが、ボストン コンサルティング グループの調査によれば、「上司との関係が良好でない」ことも大きな要因になっている。上司との関係を改善し、フロントラインワーカーの定着率を高めるために、企業は何をすべきか。本稿では4つの戦術を紹介する。
米国には現在、1100万件の求人が出されているが、その大多数は特定の場所で勤務することが求められるものであり、適切なホームオフィス環境でリモートワークをすることができない職種だ。このように、筆者らが「デスクを持たない」仕事と呼ぶフロントラインワーカーの業務は、ヘルスケア、ホスピタリティやレジャー、小売、製造、そして輸送・倉庫業界に多い。
米国労働省労働統計局によれば、新型コロナウイルスの感染拡大以降、フロントラインワーカーの採用と定着に懸命に取り組む企業は、すでに賃金を7~10%引き上げている。しかし、賃金を上げてもフロントラインで働く人材を取り返すには至っていない。
この問題の解決策は、マネジャーとフロントラインワーカーの関係を改善することにありそうだ。
2021年、ボストン コンサルティング グループ(BCG)が米国における小売、流通、旅行、飲食業界の時間給労働者を対象に実施した調査によれば、離職した最大の理由は給与と新型コロナウイルス感染拡大の影響で、次に多かったのは上司との関係が良好でないことだった(下図を参照)。
これは驚くに値しない。直属の上司は、部下の日々の仕事体験に最も大きな影響を与える存在なのだ。
フロントラインマネジャーは、重要でありながら十分に評価されていないことが多いが、コロナ禍で彼らの職務はいっそう重要かつ困難なものになっている。実際、他の退職理由の多く(仕事が楽しくない/つまらない、柔軟性のある働き方ができない/スケジュールが予測できない、適切に評価されていると感じられない)もまた、上司に起因するものである。
フロントラインワーカーはマネジャーに対して、安定性と共感、そしてサポートを求めている。特に現在のように、スタッフのスケジューリングや仕事の責任範囲の調整、個人的ストレスの管理がかつてなく難しくなっている状況では、なおさらだ。
マネジャー自身がストレスや苦悩を抱えていると、チームメンバーも直接的・間接的に影響を受けることが少なくない。そうなれば、部下は上司から十分にサポートされていると実感できず、組織とのつながりが希薄になり、退職を考えるようになる。
筆者らは、フロントラインワーカーがマネジャーに不満を持つ主な理由は、リーダーの立場に就いたばかりのマネジャーが多いためではないかと予測している。我々のクライアントにも多くのフロントラインワーカーを擁する企業があり、その中にはフロントラインマネジャーの40%がリーダーになって1年目だと報告した企業もあるからだ。
フロントラインマネジャーは技術面の能力を認められて昇進することが多く、人材マネジメントに関する基本的な知識や経験が不足している。しかし、そのような問題はシンプルな取り組みによって改善できる。難しい会話に生産的に対処する方法や効果的なコーチングの方法など、状況に応じたリーダーシップスキルを身につけるのだ。
マネジャーが常に最善を尽くし、最も自分らしく、共感力を最大限に発揮し、モチベーションを高く維持するために、企業は何をすべきだろうか。マネジャーが日々、最高のコーチングやセルフメンタリングを行うために、企業は何ができるだろうか。
本稿では、クライアント企業のフロントラインマネジャー育成を支援してきたBCGの豊富な経験に基づき、4つの効果的な戦術を紹介する。