(1)優れたフロントラインマネジャーが何をしているか見定め、マネジャー同士で共有させる

 従来のフロントラインマネジメント研修は、仮に実施されていたとしても、理論的かつ抽象的な内容で、実際の現場とは遠く離れた会議室や教室で行われることが多い。

 BCGが700以上の組織で90万人以上のフロントラインリーダーの育成を支援してきた経験から、フロントラインリーダーシップを向上・維持させる最も確実かつ迅速な方法は、さまざまな強みを兼ね備え、仕事の役割と経験年数ができるだけ異なる10人程度のマネジャーを見つけ出し、彼らを最高のマネジャーから成るグループと見なし、他のマネジャーの指導・育成に活用することだと断言できる。

 まず、徹底的な調査から始める。マネジャーグループの1日またはシフト時間内の様子を観察し、カレンダーを分析することで時間の使い方を把握し、彼らが利用しているツールや独自に作成したチェックリストやガイドを洗い出す。これによって、日々の行動、習慣、態度、知識、そしてスキルを体系的に特定することができる。そのうえで、最も優れたやり方を選び出し、組織で日々実践されている優れたリーダーシップとはどのようなものか、複合的なイメージをつくり上げる。

 この「デザイン・フォー・アダプション」アプローチによって、マネジャーは新たなスキルを確実に取り入れることができる。

 その理由は、第1に、自組織の実際の経験に基づいているため、フロントラインマネジャーがこれを信頼できるものとして受け入れやすい。第2に、自分たちがロールモデルと見なされていると認識することで、模範的なフロントラインマネジャーが望ましい方法を提唱し、それを広めるインセンティブになる。そして第3に、このプロセスを通じて、コーチングやメンタリングを行うフロントラインマネジャーグループが自然に生まれ、持続的変化に貢献できるためである。

 筆者らが、ある金属メーカーで複数の優秀なフロントラインマネジャーを徹底的に調査した結果、以下の特徴が見つかった。

・当初の目標に向かって脇目もふらずに走るのではなく、何か気にかかる問題を目にした時は立ち止まる。

・間違いを正そうとしたり、もっと悪い場合は叱ったりするのではなく、問題の本質を深く理解するために探索的質問をする。

・問題解決のための議論に時間を割き、フロントラインワーカーがみずから解決策を導けるようにする。

・解決策を見つけ出し、それを適用したフロントラインワーカーを必ずフォローアップし、公の場で評価する。

 いずれもシンプルなアプローチに思えるだろうが、筆者らが調査を行ったこの組織では、フロントラインマネジャーの90%がこれらを日々一貫して実践してはいなかった。

 そこで、優秀なマネジャーグループがそれぞれの知識、スキル、態度、習慣、ツールを周囲に共有したところ、これらの優れたアプローチはすぐに広がった。その結果、従業員の幸福度が向上するとともに、製造業にとって最も重要な指標の一つである全災害発生率(TCIR:米国労働安全衛生局〈OSHA〉の測定によるフルタイム労働者100人当たりの1年間の負傷者数)が50%減少した。